このところ、山形へは毎週末に帰っています。
飛行機が山形上空にさしかかると、窓の下にはまず蔵王連山、それから月山、鳥海山の勇姿が現れます。あの山々の裾野には湧き水が出るところがあって、夏の晴れた日には、その水の清らかなおいしさが脳裏をよぎります。
山形には海の幸があり、山の幸があり、りんご、もも、なし、ぶどうなどの果樹は全国3位の生産量をほこります。
窓の下の景色を見ながら、つくづく「ここが郷里であってよかった」と思います。
旅には、その土地の繁華街や、住宅街のちょっとした小径を歩き、その雰囲気を味わう愉しみというものがあります。スペインの裏町の洗濯物がはためく下で、子どもたちが叫びながら小石を蹴っている情景を眺めるのが心地よいのと同じように、生活の場としての山形も、人々を魅了する豊かな情緒をたたえています。
郷土の生んだ偉大な作家、藤沢周平の作品を映画化した『蝉しぐれ』(10月1日公開予定)や『たそがれ清兵衛』には、われわれ地元の人間でさえ驚く美しい映像がちりばめられています。
ただ、山形は質素です。私なりに努力はしてきましたが、まだまだ所得水準は低いまま。今までずっと農業中心にものを考えてきた結果、より現代に合った産業構造に転換してこられなかったためなのですが、まだまだ製造業中心の考え方から抜け切れず、最先端の知的集約産業の山形には脱皮できていません。
だから、人々は質素に暮らしています。男45歳、中堅建設業の営業部長が、ふたりの子どもを東京の4年制大学に行かせるために、高校の同窓会の会費が払えず、いろんな理由をつけて断る……というのが実情で、これを何とかして、あと2、3割所得水準を上げたいものです。
鶴岡市、酒田市は、少しずつその方向に向かっています。酒田にはコールセンターができ、オンラインで仕事をする企業も現れ始めました。しかし新庄最上地区は、まだまだこれからといったところです。
しかし、もしそれがうまくいったら、山形は、日本でもっとも豊かで住みやすい社会になるでしょう。なぜなら、ここにはまた、コミュニティがあるからです。
たとえば、250年の歴史を誇る「新庄祭り」には、20余りの町内と周辺の村落がジョイントして、毎年山車を繰り出しています。企業参加はまったくありません。この祭りは250年前、飢饉を乗り越えるため、町人がなけなしの金をはたいて山車を飾り、農民が鉦や太鼓で盛り立てたという、町方と農村集落の励ましあいから始まったものです。
また、月山の麓の櫛引町黒川地区には、500年にわたって連綿と続いてきた「黒川能」の伝統が見事に残っています。今でも能540演目、狂言50番が受け継がれており、集落の子どもは全員、小学生の頃から手ほどきを受けるのです。
東京の郊外の巨大な団地を見るにつけ、この地域の人たちにはどうやってコミュニティを再興してあげればいいのか、との思いに駆られます。わが郷土には、かつてに比べれば痩せたとはいえ、東京の数百倍の豊かなコミュニティの土壌があるのです。
今、私たちはようやく「モノの豊かさには際限がない」ということに気づき、それらのキャッチアップに楽しみを求める生活に限界を感じるようになってきました。これからは、やはり自分なりの価値を持つと同時に、地域における人との交わりのなかに、いかに自分を位置づけていけるかがキーポイントとなってくるでしょう。それを見事にやりうるのが山形県だと思っています。 |