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ドーハ・ラウンドと日本の食料自給率
平成20年7月25日
このメッセージはテキストのみとなります。

世界では、国家間で無数の商品を売り買いしていますが、世界貿易機関(WTO)は世界150カ国超が加盟し、その時々の取引ルールを決めるという場です。
たとえば、自国において自動車産業を育てようとすると、外国製の車は国内に入れないとか、高い関税をかけて高価な買い物にするというような方法で国産車を優位にして、業界を育てるわけです。かつては日本もそのようにして、日産やトヨタを育ててきました。これは世界中どこの国にも共通する“人情”です。
農業も同じです。農産品を大量に、しかも安く作れる国々は、日本のようなお金のある輸入国にどんどん売り込みたい。一方、日本は自国の農家を保護したいので、その品目は入れさせませんとか、入れるにしても高い関税をかけて保護をしようとします。

こうした国益がぶつかる難しい交渉ごとの落としどころとして、国内消費量に対して最低7〜8%は入れなさいという、「ミニマムアクセス」という概念が、前回のウルグアイ・ラウンドで設けられました。

余談になりますが、この「ラウンド」というのは、円卓とか、ボクシングの1ラウンドといった意味合いではありません。22年前になりますが、この貿易交渉の第1回目をウルグアイの首都で行いました。難しい内容なので、1度ではまとまらず、その後7〜8年をかけて世界各国をまわりながら会議を続けたものですから、ウルグアイ・ラウンドという名前がついたわけです。「ラウンド」は、グルグルと会議して周って歩くというような意味合いで使われています。

今回は、中近東のドーハというところで1回目の会議をして、その後8年もモメに揉めて、旅ガラスみたいに世界中で会議をやってきたので、「ドーハ・ラウンド」。いよいよ今度は8年目なので、そろそろ結論を出さなければいけません。今までは、サミットでも注目を浴びた「シェルパ」と呼ばれる担当局長とか課長といった役人たち、つまり現場スタッフが合意点を模索して話し合ってきたのですが、ついにこの21日から各国の農林水産大臣たちが集まって、最後の政治的決断を下す会議をやろうということが決まりました。こうなるともう、いよいよ決めざるを得ないという雰囲気が醸成されます。もつれにもつれながらも、ゴール目前のところまで来ている。
私も、農林水産大臣の若林氏に同行して、相談役の一人として参加することになりました。今回の最大の論点は、コメ、砂糖、酪農製品あたりの攻防です。日本はこれまで、外国産のコメに対して778%という大変高い関税をかけ、事実上ほとんど国内で流通しないようにしてきました。コメに関しては毛皮のコートを着せるくらい手厚く守ってきたと言えます。それに比べると、酪農畜産はセーター、野菜は木綿の下着しか着せていないというくらいの守り方でした。いよいよ今度は、コメに着せた毛皮のコートをどうするかが大問題になったわけです。
国内生産をどう守るのか、つまり農家保護のあり方を考えるとき、これまでは外国の安いものを食べたいと願う消費者利益とのバランスが難しいところでした。しかし最近、食料の安全保障がこれだけ騒がれるようになると、消費者の志向も「国産品を守ろう」という方向に傾きます。しかし、いざ輸入から国産品を守り、店頭価格が上がってくると、本当に守れと言い続けるものかどうか、これは分かりません。どこの国も我田引水、それぞれ政治的に安易な妥協をするとその国の選挙で大敗を喫するようなテーマを抱えているものですから、やはりなかなかまとまらない。

さて、コメをめぐる状況を、国内から見渡してみましょう。
昨今、日本の食糧事情もめまぐるしく変わってきて、お米の値段が結構上がっています。特に銘柄米がスーパーから姿を消して、農林水産省の専門家も、我々政治家も、驚きを隠せませんでした。まるで誰かが買いだめして、ゆっくりと出して値をつりあげているということなのか、とも考えたくなります。
それに対して農水省は、昨年買い入れた30〜40万トンのコメをゆっくり丁寧に市場に出して、品薄にならないように調整をしています。
さて、この消えたお米のナゾですが、どうも答えは、日本人がお米をいっぱい食べるようになったということらしい。
理由は生活防衛です。主食という面では、小麦、パンが30%近く価格上昇しましたが、それに比べるとお米は上がっていません。一方、副菜としては、牛肉などの高級肉の消費が少し落ちて、比較的安い豚肉、鶏肉が売れています。加えて、昨今の石油価格の高騰で、漁業が危機的状況です。燃油の価格上昇分を魚の小売価格に上乗せしたら、消費者はおそらく、牛肉離れと同じように、魚を食べなくなるでしょう。
このような事情があって、高級肉食、魚食が減り、野菜炒めや、ごはんの消費量が増える。そのために食料自給率は、おそらく39%よりもっと伸びて、すでに40%を超えたのではないかと思います。

どんな食材に、幾らのお金を出して買うのか。つまりは日本人は何を食べていくのか。
WTOで侃々諤々、話し合っていることが、いやおうなくみなさんの食卓へと反映されていきます。スーパーで買い物をするとき、テーブルを囲んで食事をするとき、一般市民の思考は世界の食料事情へと向かっていかざるを得ない、そんな時代がやってきたのです。
また、帰国後にご報告をしたいと思います。