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年金法改正採決は拙速である
2007年6月1日
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年金法がかなり急いだかたちで採決された。夏の参院選に向け、今後どんな政治的影響が出るか、若干心配である。
今回の5千万件の失われた年金記録の話は、簡単な話ではないような気がする。もちろん、それだけの記録が「消えた」というのは、民主党のかなりデタラメな選挙戦略の方法で、それにメディアが乗っかっていることがおかしい。5千万件のデータなら、ちゃんと社会保険庁のコンピュータに残っている。敢えて言えば、「未処理のデータ」に過ぎない。
9年前に基礎年金番号への統一を始めたとき、3億件の年金記録があった。1人の人が転職や結婚を契機に、厚生年金と国民年金をいったりきたりする。そういう、ありとあらゆることが20歳以上の日本人に起きているのだから、人口の3〜4倍のデータがあってもおかしくない。特に、国民に背番号のない日本では当然だろう。
社会保険庁は、それから9年をかけてデータを1億5千万件に整理した。20歳以上の年金支払者を1億とすると、5千万件が未処理ということになる。

第一の問題は、なぜそれが今日まで放置されたかである。正しくは「放置」ではなく、1年間に180万件くらいは名寄せ作業が進んでいたらしい。ただ、しかしその中にもすでに受給年齢に達した人のデータがたくさん入っていたとすれば、支給額が減っている結果になる。従来からの社会保険庁の考えによれば、「もしたとえば結婚前に勤務していたときの分が抜けている気がすると思ったら、自分で言ってきてほしい」(自己申請主義)というわけだ。
第2の問題はここである。自分から言ってこない限り、5千万件の名寄せ処理が終わるまでは正確な受給額が確定しないまま、年金支給されることになる。もちろん、世の中のほとんどの人が、自分の年金額には強い関心を持っているから、多くの場合は半額とか3割が欠けもすれば、自分から役所にかけこむだろう。しかし、そうではない人も大勢いることは、当然予測される。
ここで思い起こされるのが、2〜4月に騒ぎになった、生命保険会社の保険金未払い問題だ。各会社の社長や幹部が責任を取らされた数十万件にのぼる未払い事件は、中心的な死亡保険金は当然払われたが、結果的に支給されるべき保険金が正しく支払われなかった。受け取る側が言ってこなかったのが良くないという意見があったが、私はそれを聞いて「それは奇妙だ。保険料は受け取っており、会社内でコンピュータ処理して、お客さんはお忘れかもしれませんが、こういう特約に入っておりましたので、死亡保険料に150万円をプラスして支払います」というのが会社側の務めだろうに、けしからん」と思ったものだ。
「自分で言ってこないのがおかしい」は通用するまい。
同じことが、年金制度にも起こったのだ。4月上旬に民主党から問題提起され、議論しているうちに、安倍首相も「自己申告主義の壁は崩さない」という答弁をしているし、役所はその一線を越さないよう、必死に防戦しているが、その線はいずれ崩れるだろう。

公的年金は強制加入である。もし保険料を支払わない場合は差し押さえまでして徴収するのだから、払うときだけは「自己申告で」という理屈が通るわけがない。
それが“役人的言い方”というのだ。
まして、調べてみると「あと150万をあなたに支払うべきことになるが、国の場合5年の時効があるので、涙をのんでください。払いません」ということが通るわけがない。今回、それは幸いなことに時効がかからないように法改正された。が、それは当然のことで、それほど政府側の得点になるものではない。
5千万件の未処理のうち、すでに受給年齢に達しているケースが2880万件あるという。死亡した人もあれば、ダブルで記録のあるケースもあろう。でも、100〜200万件程度の実のある記録で、今日まで名寄せされずにきて、支給額の減少という結果になったものがある可能性は否定できない。

これはじっくりと、議会において国民にこれまでの行政スタイルを率直に告白し、国民の協力をもらいながら、事実関係を整理していくべきことだ。短時間で急いで法案を通すことではない。
社会保険庁の法案の採決は、2年越しで延びてきたことではあるが、国民の信頼を失ってまで、今国会で通さなければならないものだったのだろうか。 自民党の選挙戦略にとっても、少し気になるところだ。