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第21回「雲霓の会」での講演(平成11年1月26日)

 

〈国政報告〉
国内経済を建て直し アジアの回復に責任を持つ

アジアがよくなるには、まず日本がよくなってくれないといけない−−そうアジアの指導者から言われる。日本は現在マーケットエコノミーを直すための大手術中だが、これをやり遂げて、国内経済を建て直し同時にアジアの発展に貢献していかなければならない。

加 藤 紘 一(前自由民主党幹事長)

雪の中、もがけばもがく程車輪は沈んでいく

どうも皆さん、明けましておめでとうございます。  本年は格段にいい年であるようにということを願います。毎年ここでお互いにそういう言葉を言い合うのですけれども、今年ほどこの言葉をかみしめて、期待を込めて、決意を込めて言わなければならない年はないのではないかなと思うぐらいでございます。

私は今年から、地元の後援会の新年会を1月2日から1月9日に直しました。世の中、我々山形県でも大分変わりまして、ファミリーで年末年始を過ごすという人が多くて、そういう会をやるのも、松が解けてからという時代になってきたわけで、9日にしたんですが、その日日本海側は大変な吹雪でございました。ちゃんと私も見通しを立てて、9日には飛行機が飛ばないおそれがあるというので、前の日から行って備えていました。政治家は見通しが大切なんですが、案の定、翌日9日の日は飛びませんで、よかったなと。そしてちゃんと、9日の鶴岡市の会場と、酒田市の会場は努めました。ところが途中、鶴岡から酒田に行く間、猛烈な吹雪、ブリザードに遭いまして、難渋いたしました。

私の選挙区の雪は、縦に降るのではなくて、横に降るのでございまして、これは故郷の関係の方はご承知ですが、通称、日本海岸の地吹雪です。1.7メートルぐらいのところで雪が舞っていまして、大型のダンプで2メーターぐらいの高さだと運転席から全部見えるし、ぐんぐんと進んでいくという世界なんですが、どうしてもあるところを通らなきゃいけないので、時間も迫っているというので突っ切りましたら失敗しまして、雪のたまっているところに車が突っ込んで動かなくなってしましました。

 これは静かにエンジンを回し、車を回し、だましだましやってさあーっと抜けていくんですけれども、うちの地元の秘書たちもその技術は大変なものなんですが、結局だめでした。ものがけばもがくほど、車輪が回れば回るほどずうっと車体は沈んでいきまして、ついにはボディーのおなかが雪の地面についちゃう−−これはもう万事休すなんです。しようがありません、四輪駆動に来てもらいましたが引っ張れずに、小型トラクターが来てもだめで、ついに大型トラクターに来てもらって引っ張ったんですが。まあ、あと一歩というところで動きません。

私はそのとき、長靴もオーバーも着ていない姿だったものですから、秘書から「先生は中にいてください。ビュービュー吹雪く中で風邪でも引かれると、あしたの朝、『サンデープロジェクト』で久方ぶりに田原総一朗さんと論議をする、それに風邪を引いて、あの論議に負けちゃあ、命取りになりますから。だから大事にしてください」と言われていたのですが、どうしても動かないので、私は意を決して秘書とともに5分か10分ほど「うっ」とやりましたらくるっと動きまして、それでその難関を突破いたしました。約この間1時間10分ほどかかりました。まあよかったなと思って考えたら、去年一年の日本経済もこんなものだったかなと、あがけばあがくほど、車輪が中に入っていったというような感じで、そこから抜けられるかどうかというのが、今年の最大の課題ではないかと思っています。

ダボス会議で何を言おうか真剣に考えた

私きょうは、あまりさわやかな生き生きとした顔をしていないと思うんですけれども、それはきのう四時間足らずしか寝ておりませんで、何をやっておったかというと、今度の金、土とスイスのダボスで開かれる、通称ダボス会議というところに行くことにして、その原稿の構想をいろいろ練ったり、いろいろな人の意見をいただいたものを読んだりしているうちに夜更かしになったわけであります。寝不足です。

私は、このダボス会議というのが、ご承知のように大変重要なインターナショナル、PRフォーラムみたいな性格を持っていることを承知しておりましたが、日本の政治家はだれも行かないんです。いつも1月31日ごろに行われますから、国会が開かれて代表質問、予算委員会ということになりますので、ちょっとでも重要な国会議員はだれも行けないという、そういう毎年のスケジュールでした。去年、中国の朱鎔基が行きまして、「我々は人民元を切り下げない」と、この一言を言って世界経済混乱の中の見事なリーダーシップを発揮し、英雄という世界的な評価を得たわけです。

アメリカは、クリントンさんがルウィンスキーさんの問題があったりして来られなかったものですから、ヒラリーさんが来て、大丈夫よ、アメリカ頑張っている、うちの旦那もってなことを演説して、それだけですごいものだといって評価を受けたそうでありまして、ヨーロッパの指導者は首相、大蔵大臣、ほとんど毎年来ているという会議であります。

去年行かれた日本の経済界出身の方たちが、榊原財務官が頑張ってくれたものの、やっぱり政治家が行かないとほんとうに肩身が狭いと言われて、必ず来年は行ってくれるようにということを申し出されまして、約束どおり今年行くことにしました。ただ、朱鎔基が人民元は切り下げないと言って、まあ、それは守ったし、ただ1年たって、きのうあたりから少し怪しいかなみたいな香港の報道が出始めているようですけれども、じゃあ、我々日本としてはその金、土に何というメッセージを伝えたらいいんだろうということが、最大のテーマであります。

宮澤大蔵大臣にお話ししたら、「いや、加藤さんそれは重要な会議なんで、どうでしょう、『ポジティブ・グロス』という言葉で勝負したら」とおっしゃってくれました。つまり、今年は経済成長何ぼになるかわからんけれども、プラスになるだろう、ポジティブになるだろう、マイナスではないということで勝負されたらどうでしょうということでした。ただ私は、「宮澤先生、世界各国がそういう言葉を率直に信ずるような心理状態でしょうかね」ということを申しましたら、「じゃあ、一層のこと、『ザ・サン・ウィル・ライズ・アゲイン(陽はまた昇る)』という言葉でどうだろうか」とおっしゃいましたが、ちょっとこれも甘過ぎるんじゃないかなという感じを、私は持ちました。

ある方に相談したら、「アジア経済について、その回復については日本は完全な責任を持ちます。『ウィ・ウィル・テイク・リスポンシビリティ・フォー・ザ・リカバリー・オブ・エイシャン・エコノミーズ』みたいなことではどうだろう」ということを言われました。特に土曜日の午前中には、シンガポールのリー・クアンユーと、香港のトンさんと、それから私の3人で、「アジアの奇跡は再び来るのだろうか」というテーマで、一人7、8分しゃべりながら、合計2時間ぐらいのディスカッションパネルをやることになっているので、アジアについてそういう言い方をするということは重要なのかもしれません。

確かに、アジアのGNPの3分の2が日本でして、日本のGNPが100だとすると、驚くなかれ、タイとインドネシアの経済が4ですから、フィリピン、マレーシア、シンガポールがそれぞれ2、韓国はかつて13ぐらいのポジションだったのですが、最近のウォンのエクスチェンジ・レートの違いで多分9ぐらいになっていると思います。中国の14億人の人々の働きが、多分17ぐらいだろうと思いますので、アジア諸国を全部足しても日本の半分ぐらいにしかならない。つまり日本が3分の2の経済を仕切っているということになるわけですから、日本の経済がしっかりし、日本がどういうポジションをとるかということが、非常に重要だと思います。

何だかんだ言ってもアメリカはサマーズが行き、ルービンが行きいろいろアドバイスをする。IMFもカムドュッシュが行き、フィッシャー副理事が行き、そして何だかんだポケットに手を入れながらスハルトにこうしなさいなんて言います。しかし説教はするけれども、幾らお金を出したのかね、幾ら融資枠をちゃんと面倒みたのかねと言えば、まあ、ほとんど日本がやっているわけでして、2国間でそれぞれの国に援助している倍の、金融対策のお金の75%は日本がやっていまして、そしてその金額はIMF、世銀及びアジア開発銀行が面倒を見ているお金の1.5倍であるし、IMFがコミットしたお金の中にも、かなりの部分は日本のお金です。それから、日本の企業は必死になってアジアからはできるだけ逃げないように努力してくれるということを考えれば、少しは我々は、全責任持ちますよというでかいことを言ってもいいし、またその実績はあるのではないかという意味で、今、2番目の「アジアの回復には責任を持つ」という言葉は正しいのかもしれません。

ただその前に、「アジアがよくなるには、まず日本がよくなってくれないといかんのだから、そこは大丈夫ですかね」という言葉が多分返ってくる、そこを覚悟してしゃべるべきなんだと思います。

それから、ある方はこう言いました。「日本は過去2年間、経済失政をやって景気を悪くしたというような見方もあるかもしれないけれども、しかしこれはそうではない。やはり日本経済が極めて硬直した状態になっていたので、これをマーケットメカニズム、マーケットエコノミーに直していくために大手術をやっているんだ。その過程なんだ。だから、その過程の中で金融システムの大きな障害が出てきたけれども、それについては大体の仕組みはできた。だから、もうこれからは大丈夫だよ、マーケットエコノミーが日本の中にしっかりと根づくし、それは透明性が確保されるものだ。だから端的な言葉でいうと、「バンキング・クライシス・イズ・オーバー(銀行危機は終わった)」。「コンボイシステム・イズ・フィニッシュ(護送船団は終わった)」。「マーケット・エコノミー・イズ・カミング・イン・ジャパン」というあたりで、タンタンタンとリズミカルに言ったらどうかという人もいるけれども、バンキング・クライシス・イズ・オーバーということを言い切れるのかどうかということは、まだまだ私は、半年ほどするとわかることでありますので、ここはそこまでは言い切れないのではないかと思っています。つまりここで、やはり日本の国内の経済をどう見るかというところにもう1回戻ってくるのではないかという気がします。

小渕政権の評価は特に国際的に高まっている

私は、小渕内閣を山崎拓さんとともに成立に努力をし、そして評価の下がった政治家でございます。まあ、梶山さんと、小泉さんと、小渕さんの3人いる中で、何もよりによって小渕さんということをしなくてもいいでしょう。山崎、加藤というのがいろいろな派閥の、いろいろな計算等を考えてあんなことをした。冷めたピザをなぜ選んだなどということを言われたわけですけれども、今、私はその判断がそう間違えていなかったということを言ってもらえると思います。今、梶山政権待望論というのが出ているわけではありません。やっぱりああすべきであったという声が出ているわけではありませんし、小泉純一郎氏を総理にしなければいけなかったという声が出ているわけでもありません。その分、小渕さんの評価が上がったわけではないのですが、ただ国際的には、よくやっているじゃないのと言われていると思います。

その1番のポイントは、自自連立をつくったことにあるという人もいるかもしれませんけれども、国際的な評価が上がったのはその前からでありまして、簡単に言えば、金融2法を9月、10月に通したことだと思います。これには時間がかかった。丸のみもあったし、政策新人類と言われる人たちの細かい議論があって、本来あれは役人にやらせておけばいいようなことをやっていたじゃないか、もうとても見てられないねというような、一部の新聞報道もありました。しかし、よく考えていただきたいのは、日本の金融問題が突発的に出てきたという感じで、がたがたとなったのはおととしの9月、10月ですが、それから約1年にして去年の9月、10月に、非常に問題な銀行が出て、債務超過ということになったらそれを救うという再生法案と、たくましい銀行になってもらうために、キャピタル・インジェクション(資本注入)をやるという法律、それも両方あわせて60兆円の政府保証枠をつけてという法律をたった2カ月で、去年小渕政権はなし遂げたんです。私はこれは大変なアチーブメントだと見ていいんだと思います。それを世界も見ていると思います。だからルービンさんも、サマーズさんも、その後あまり問題は出していないんじゃないでしょうか。

特に、私が画期的だと思うのは、皆さんにはいろいろ思いもあろうかと思いますが、日債銀にレッドカードを出して、そしてその決断を金融監督庁がしちゃったということです。これは、一つの組織ができるとそこに働いている人たちが、かつての大蔵省の人材であったとしても、新たな組織に息吹を与えなきゃならんと思うと大蔵省とはクールに縁を切ってぼんぼんと決断していく。私は、へえ、世の中自分たちでプロモートしてみたものの、こんなことまでなるんだという驚きを感じさせられる動きなのであります。まあ、そういうところで決断をし、そして日債銀がこうなったからといってとりあえず日本国内の金融システム全体に対する大きな崩壊、波及というものが起きていないというのは相当に評価されてもいいのではないかと思っています。

そして全体的に考えると、金融システムについてはまだまだ個別の銀行についてはどうなるのか私も専門でないからわからないところがありますが、しかしシステムだけはできた。あることが起こったら、それを他に波及させないだけのシステムはできて、そしてお金の用意はできたということが言えるのではないかと思っています。ですからこれから問題は、私は実体経済のほうの話に移っていくのだろうと思います。

よく言われることですが、金融ビックバンというのが日本経済の構造改革を促進するはずだということがあります。これは、この雲霓の会がキャピタル東急で行われた朝飯会のときでありました。私が、六つの改革というのはどういう意味を持つかということを国政報告したときに、こう申しました。「橋本龍太郎総理は私にこのビックバンというもので、日本の国内の経済に対する大変な影響を与える、大変な波を起こしていく、その引き金になるというものなのだが、それが各役所にも、経済界の人にもわかってもらっていないような気がする」そして、確かに銀行システムというものが、生産性向上を求められるとするならば、それは取りも直さず、そこから融資を受けている事業会社の人々にも厳しい波及効果が出ていくと、それだけの効率を上げる事業経営をやってくださいということを融資先に求めるという意味で、かなり厳しい状況になるだろうという意味のことを私もそのとき言ったつもりであります。

その実体経済面についての難しい部分が、私はこれから出てくるのではないかと思っています。実現に政治ですから、我々は幾つかの激変緩和措置を取りました。例えば去年の暮れ、まあまあと思うことなんですけれども、中小企業の皆さんに、それこそ町の不動産屋さんだとか、それからちょっとした製造をやっているようなところで、限度五、〇〇〇万で、この貸し渋り緊急対策融資というのをやりまして、それはご承知のとおり各県にあります信用保証協会の保証枠ということでやったわけですが、10月、11月、12月、この3カ月で、全国で申し込みが実に60万件ありました。通産省の統計です。60万件のうち55万件に保証をOKしたわけです。したがって、ほとんど書類不備以外は全部OKしたということであります。そして11兆出しましたから、平均2、000万です。それで、これほど甘い緊急融資をしていますから、普段ならば事故率3%と信用保証協会のシステムは見るんですけれども、それを10%と見て、政府の予算を組んでいますが、おそらく私は、この2、3年後、10%で済まないという結果があらわれてくるのではないかと思っています。

ですからある意味では、民間にあった少額不良債権みたいなものが、政府系金融機関に移ったという形に過ぎないじゃないかという人もいますが、そういう側面もあります。しかしとりあえずとして去年の年の暮れは乗り切ったと言えるものではないかと思いますが、これから国債の増発に伴う長期金利の上げみたいなものの影響がいろいろ出てくると、金利全体が上がってきた場合に、ほんとうにどういう影響を及ぼすかということはまだはかり知れないところがあると思います。ですからできるだけ早く、それぞれの事業会社の皆さんに構造改革をお願いしたいということなのですが、そのためにはもっと景気のよくなることを政府が早くやってくれることが先決だという言葉が、皆さんの中から出てくると思います。

現在の経済不況の原因は単なる政策ミスでは 片付けられない構造的、本質的なものだ

ただ私は、選挙区をぐるぐる歩いたり、それから人の応援に行って、2、000人、3、000人の集会で、それこそ経営をやっている人ではない一般の農家の人とか、一般のサラリーマンとか、自民党の集会に来る方々ですから、若干は平均年齢は高いのですけれども、そういう人たちの我々の演説に対する反応、目の動き、そして時には何言ってんのというような目の背け方、いや、そのとおりだといううなずき方等々から見ると、私は今、そんなに簡単な特効薬が政府にあるようには思いません。

かねがね私は、一般的な所得減税をしても、これは消費に直にはすぐ結びつかないはずだということを言い続けて評判の悪い政治家、評判の悪い自民党の幹事長でしたけれども、現に9兆円を国民から取り上げたから不景気になったと、この財政構造改革路線が間違えていたんだという議論をしている人が多いんですけれども、ほんとうに私はそうなのかと、今にして思います。確かに9兆円の最後の2兆円は、老人医療費の引き上げでしたから、これは効いたように思いますけれども、しかし、それ以外の消費税の部分、特別減税の中止、そんなに大きな影響をしたかというと、私は違うと思います。なぜならば構造改革路線の議論、財政構造改革路線の議論というのは、そういうものの引き上げの後にやった議論でして、おととしの4月1日から消費税を上げて、構造改革議論というのはその6月、10月にまとめていったわけなんです。タイミングが合わないし、現に2兆円の特別減税を2回その後やって、カンフル打ったけれども響かない。最近では、合計7兆円とも9兆円とも言われる減税をやったわけですけれども、それでもそんなにマーケットでは大きな反応を示していないということは、原因がほかにあるのではないかなと思います。

その原因というのは、やはり私は、金融ビックバンがもたらした過度のショックというものが一つであり、それからそれに誘発された感じではありますけれども、自分の企業ないし雇用というものが将来守り切れるかという雇用不安、そして自分たちの老後は大丈夫かという老後不安というものが物事を悪化させて、財布を締めているのだろうとますます最近思いました。

一週間ほど前、NHKで世論調査したのですが、「所得減税、今後なされますけれども、これで物を買いますか」という質問に、85%の人がノーと答えています。それから、所得減税をしたけれども、これがいいか悪いかというと大体答えは半々なんです。ということは、一般国民はそんな財政のことなんというのはよっぽどでないと考えないから、現在というのは賛成か反対かと言われたら、1対9ぐらいで反対が多いはずなんですが、五分五分というところまで来ているというのは、国民も何らかの不安を感じ始めているということではないかと思います。その不安の最大のものは、すべての構造改革的な努力を抜きにして、後送りにして、全部後ろに送るんですかという、漠とした不安ではないかと思います。

去年の参議院選挙のときに、午後6時から8時まで投票時間が延長されたわけですが、このときに投票所に行ったというのは、おそらく20代、30代の若いカップルが子供の手を引いて、ジーパンはいて、そして行ったというケースが多いと思うんですけれども、これはほとんど自民党に入れていなかったと思います。そしてその思いは、昔のように自民党だからイデオロギー的に嫌だというのではないけれども、何か今の世代が何とかかんとかうまくやっていくために問題を先送りしているじゃないか。またそのために、総理大臣も、自民党の幹部たちも、減税というような言葉を軽く言っているじゃないか。それは信用できないという若者の厳しい、冷たい批判の目なのではないかという感じを私は持ちます。

年金の議論がよくあります。団塊の世代の人間、またはそれより若い人たちは、掛けた金額だけもらえないというような誤った事実がどんどん週刊誌に流されて、そして、じゃあ自己責任で自己防衛しようかと、401Kなんていうのはいいシステムだなみたいな話になっているのだけれども、そういうところに借金を何十兆円の単位で後送りしていくとなれば、ますます不安じゃないかとなって、ますますみんな自己防衛で貯金に走っていくということになるのではないかと私は思います。ですから、今ほんとうの年金、それから介護、老後の医療の議論というのは、その負担の問題も含めて、今の政治の中では先送りされています。これらの問題はこれから一年ぐらいかけてもっと徹底的に議論していかなければならないテーマだから、今、拙速に結論を出すよりもそのほうがいいのかと思いますが、私はここのところの不安感の除去というのが今一番大切なことなのではないかなと思います。企業年金がおかしくなって、厚生年金代行部分をどうしようかみたいな具体的な話も多くのサラリーマンに不安を与えているわけなんで、そのところをしっかり議論することが大事だと思います。

それから日本経済全体からいえば、企業とか、雇用とか、はたまた日本の経済そのものがだめになるかという問題点については、私はもっともっとポジティブに考えていいのだと思います。私はこの日本という国は大丈夫だと思っています。ただそのためには、幾つかのポジティブなことをやっていかなければいけない。それはこの会でも何度も何度も私が申していることですが、やはり新しい産業、製品の根っこになる、開発の根っこになるような基礎科学研究のところをしっかりとやっておかなければいけないということだと思います。

この点につきましては、まあ、おかげさまで、我々が何度も何度も言っていますと、ほかの予算は切れるけれども、科学の予算は切らないようにしようみたいな話になってきております。以前、若手の研究者支援計画、ポストドクター計画というのをやりますよということをこの「雲霓の会」で申しまして、当時東大の吉川学長に、25から35歳ぐらいまでの若手の研究者が外国に逃げちゃう、1人300万、5、000人分出してほしいと言われて、それを500万、1万人にしましょうと約束したことを申しましたが、去年の暮れの予算で、やっと5年でやるべきことを4年のうちにやり切ることができました。平均490万円ほどで、一万何十人かになりましたので、これは公約どおりできたし、筑波のいろいろな基礎科学研究所で、30人、50人というふうに働き始めたということは、これから何らかのものが打ち出されてくると思います。

最近徳島のある中小企業の研究者が、僕はよくわからないのですが、ブルーレーザー光線の開発に成功したというので、4、5日前のニューヨークタイムスの経済面のトップ記事でドテンと大きく書かれていました。日本ではあまり報道されていなかったようですけれども世界的なニュースだそうです。現在の物よりもブルーレーザーというのは、波長が2分の1か3分の1かなんかのようで、それによって刻みが短くなるんでしょうか、大変なことのようなんですが、そんなことがこれから次から次へと出て欲しいなと思っています。

最近バイオでこんなことがありました、ということを科学技術庁の人が言ってきましたが、それは、聾唖の方というのは、耳が聞こえないということなんですけれども、我々の演説とか安室奈美惠の歌というのは聞こえないけれども、それより高い周波数の音は感応しているのだそうです。だから、この声を周波数の高いものに変換して、その機能をつけた補聴器を与えるとわかるのではないかということが大体見えてきたので、これから必死にやります、日本がやりますということを言っていましたけれども、そんないろいろなことがこれから続々と出てきてほしいし、また出てくるのではないかと期待しております。  それから、そういった点と、もう一つ私たちは是非お願いしたいのは、やっぱり金融システムの中で、エキスパティーズというか、能力を徹底的に開発してほしいと思います。最近私は、何とも割り切れないのは、日本リースという会社をGEキャピタルが豊富な資金源をもとに買い取ったということなのでありますが、対外的な関係で言えば、日本が一番お金を持っているわけで、対外債権を持っているわけで、その金をアメリカに貸して、ある意味では、政府ボンドを買ってあげて、そしてあの国は貿易の赤字国で、貯蓄率も低い国で、どうしてあの国からお金を持ってきて日本の金融業が買い取られなきゃならんのだと言うことです。そしてあの国の格付け機関が、ムーディズかスタンダード・アンド・プアーズか知らないけれども、日本の企業に格付けするとそれで生殺与奪の権を握られちゃうというのは一体どういうことなんだという思いがします。やっぱりそれは、そういうシステムの中で、まあ、日本国内でいろいろやっていればうまくいくと思っていたということが、実はかなりの実力を落とす結果になっていたのではないかという気がします。

今年は手術中、改革中だという意識で事に 当たらなければいけない

私のある知り合いが、銀行の頭取を現役でやっているのですけれども、どうだって聞くと、うん確かに甘かったかもしれない、そして自分たちの銀行には猛烈に優秀な人材が来ていた、しかし、この2、30年その優れた人材に、胃の痛むような努力をさせて、世界のバンカーたちと勝負してもらうような、働き場所を与えてきたかというと、忸怩たるものがあるということを言っておりましたけれども、やはり日本人というのは、お金は全部金融機関に預けます。それを豊かさに翻訳する作業というのがバンキングシステムであり、バンキングのノウハウだったと思うのですが、やはりそこが少し競争という意味では遅れていたのではないかと気がします。

政策新人類と言われる塩崎恭久君が、四年ほど前にドイツに行って、ドイツの銀行の中堅幹部から、日本の銀行を2、3年以内に凌駕してやっつけてしまうと言われた。なぜならば、最近日本の銀行の実力が落ちたからだということを言われて、悔しかったですと帰ってきた。そんなことはないと私は言ったのですけれども、最近やっぱりここしばらくは少し力が落ちていたのかな、そしてまた同時にそこで大きな反省なのですけれども、我々政治家が金融とか、円とドルとかいう話は、どちらかというと専門家に任せていて、大蔵省に任せていて、そして大蔵省のほうはやはり自分たちの村の中だけで仕事をしていたのではないか、そこにしっかりとした目を向けていなかった私たちが悪かったのではないかなと真剣に反省しています。しかし、言わせていただければ、山形の田舎で選挙運動をしながら、円とドルの交換の比率だとか、それからIMFのシステムだとかいうことを勉強しろといったって無理じゃないかという気持ちにも時々なるんです。だがアメリカから来る議員たちは、我々に向かって、このIMFとアジア諸国の金融の関係について、おれはこう思うけど、ミスター加藤どう思うと迫ってくる。かなりの高度の知識を持って迫ってくる。あの力、意気込みがあるからドルというものが世界各国を席巻しながら、ある意味ではいろいろな国の稼ぎをかすめながら、ハワイで若いアメリカのウォールストリートの人間が、3週間のバケーションを取るのかなというふうな思いもします。だから我々は、政治家も金融界もともに、日本人の働いたものを、ほんとうの豊かさにつなげるための必死の勉強をこれからしなければいけないのではないかと思います。

それとともに、今は私たちがやっているのは、実は手術中、今オペレーション中であるという意識をしっかり持つことなのではないかと思います。ともすれば、今、とりあえずカンフルを打つということで、めちゃくちゃな財政出勤をしています。そして私に言わせれば、あそこまで減税しても効き目がないのにオペレーションしたなと、その結果、81兆の財政を今年組んでいますけれども、税金は81兆に対して50兆であります。そして7兆、8兆の減税をしまして、それがまた平年度で効いていきますから、これが46兆ぐらいまでに近々落ちるはずです。81兆毎年使うのに、46兆しか入らない。その中から消費税をゼロにしてしまおう、これが自自連立の約束ごとですみたいなことをOKしちゃったら、それから13兆消えてなくなるわけで、33兆しかないわけで、81兆使いながら33兆しか金が入らないような国というのは、紛れもなく20年前のイギリスと同じ状況になるのでありまして、サッチャーさんも鉄の意志の女性でしたけれども、彼女の思想性の強さ、信念の強さと同時に、それをせざるを得ないほどの状況のイギリスだったからではないかと思います。ですから私は、今いたずらに財政出動しておりますけれども、この後始末は大変だなと思いました。

しかし私は、どんなことでも、今自分たちがやっていることを改革をしなければならない、特に市場経済の原理を入れる方向で、構造改革をしなければならないと考えています。大変な手術の課程の中で、あまりにも患者が痛かったら、少しはカンフルを打ちます。しかしこれは本来やってはいけないカンフルなんです。今はオペレーション中なんだ、改革中なんだという意識をしっかり持っているならば、私は、いろいろな問題点を残しても、後でそれを解決する根性は生まれてくると思います。

しかし、みんなで今やっている、かなり無原理、何でもありの手だてを、これがいいことなんだというふうに思ってやっているのだとするならば、それは救いのないことになるのではないかなと思います。少なくとも、我々はそういうしっかりとした問題意識を、危機感を持ちながら、この一年を過ごしていかなければいけないのではないか。そしてそこをしっかりやっていれば、この国は、いつも言いますように、資本と技術開発力と人材を持っているのですから、私は明るい未来をつくり得ると思います。

私はご承知のように、農村地帯出身の議員ですから、農家の人から時々聞く言葉があるんです。同じ土地に同じ作物を何十年も植え続けて、化学肥料をやり続けると、土地が固くなって白くなって、そして作物を育てなくなる。そのときには、土を砕いて、落ち葉を入れ、堆肥を入れ、空気を混ぜて柔らかな新しい土にする。そうすると、種子は青々とした野菜を生育させ、球根は赤、黄色の見事なチューリップを花咲かせるんだと。それが我々のやることですと。ちょうど今私たちの社会は、いい種子、いい球根を持っているけれども、それが伸び伸びと生育しない、したがってそこを土壌改良しなければならないときなのではないかと思います。

その土壌改良をしっかりやればこの国は大丈夫と、私は信ずるというより、それが事実だと思っています。これぐらいの潜在力を持っている国はないのでありますから。若干問題点は、英語の能力が悪過ぎる。これが国際化の中で大変な問題で、TOEFL(トーフル)という全世界共通の英語の試験があるんですけれども、一六〇カ国の高校生をテストしたら日本は一五五番目で、北朝鮮の下位でした。これで、おそらく世界に伍していこうとするバンカーたちが、そして証券会社の若手たちが、外国に行ったときにネゴできるだろうか。この語学力の問題というのはどうしたらいいんだろうと。私自身も政治家の中ではかなり英語の話せるほうですけれども、しかし今晩、外人と二時間英語でやらなきゃならんとなると気が重くなります。これって一体何なんだろう。

それはインターネットで直せる世の中になるのだろうかというあたりが、ちょっと一つ心配であります。今小渕さんが文部省に命令して五年以内に日本人の英語力を上げるようにと一言言って何かやるべきときかもしれないし、高校受験の英語テストの方式を変えてTOEFLにするというあたりが、とりあえずの答えなのかなと思ったりしています。

この点を除けば、さっき言いましたように3つの種子、資本、技術、人材能力、大変なものなので、何とかこれが花咲くように、一生懸命これから、この一年頑張ってみたい、こんな気持ちでおります。  新年が皆さんにいい年でありますように、社会にとっていい年でありますように、心からまた祈りながらごあいさつにいたします。ありがとうございました。(拍手)

日本経済の現状とその打開の方法をわかりやすく述べる加藤紘一前自民党幹事長
国民の漠とした不安感を取り除くのが政治の役目と語る加藤紘一前自民党幹事長

 

 

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