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同志雲霓
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1998年10月22日、雲霓の会・総会での講演

 

持ち得る資本、技術、人材を 発揮すれば、
この国は大丈夫だ

今、一番政治が弱々しく見えるかもしれないが、それは産みの苦しみだと思ってもらいたい。必ずこの国を再生させるため、しっかりとしたビジョンを立て力強くリードしていく。

加 藤 紘 一(前自由民主党幹事長)

参院選「敗北」の3つの原因

きょう、この会を催しましたところ、大変お忙しい中を皆さんにお出でいただき、また大変ご高配もいただきましたことを心からお礼申し上げたいと思います。

7月の参議院の選挙のほうで大きく敗れましたものですから、その責任をとって、今、静かに謹慎中でございます。4年間馬車馬のごとく働いてまいりましたので、正直なところを言いまして、いい時間を持たせてもらってるなあという感じがしております。読みたかった本、考えなければならなかったテーマ、学びたいことをあまり時間を気にせずにやれる。そして時には翌朝のことを考えないで、夜更けても本を読んでいられるというのは、今まで4、5年間なかったし、ほんとうにいいなあと思って過ごさせていただいております。

選挙で我々は負けましたけれども、実は、よく考えてみるとこの程度の負けというのはこれまでにもあったんです。まず、衆議院のほうは今、265ぐらい自民党が持ってますから、かなり高い衆議院の比率を持っておりまして、圧倒的な与党なんです。それからもう一つ、参議院のほうがこの間負けてということなんですが、消費税のときにはもっと負けたんです。ですから、あのときのことを考えれば、頑張っていけないことはないのです。しかし、全体的に、何か自民党が野党になったような気分がございまして、そして、若干焦っているような、自信回復に時間を必要としているようなところがあります。なぜなんだろうと。それはやはり自民党の政治家も直観力がありますから、我々の政治がこのままでいいんだろうか。それから、従来の政治とか選挙運動のやり方がきかなくなったとか、歴史的な任務を終えたようなところがちょっとあるんじゃないか。ここで新しいことを考えなきゃならんのだが、その答えがまだない。そういった無力感みたいなものがあるからではないかと思っています。

とにかく投票率が上がったら我が党が負けちゃったというようなことではどうしようもないのであります。特に午後6時から8時まで投票時間を延ばしたら、若い者がジーパンを履いて投票に行った結果負けちゃったというようなことだったら、その政党に将来はないわけであります。したがって、何らかの新しいことをしなければならない、それが何なんだろうかということを、みんなが模索しているときなのではないかと思います。そういうときに時間をもらって考え続けることができるということは、私自身にとっては大変いい充電の期間だと思っております。

選挙で大きく敗れた理由を、私は3つ感じます。1つは不景気にしたということです。特に我々自由民主党を支えてくれておりました金融、証券、保険、それから、そこからお金を借りている各企業の人、特に中小企業の人々。この人たちに塗炭の苦しみを与えたわけですから、政治の世界で自分たちを票の面でも資金の面でも1番サポートしてくれている人たちに打撃を与えれば、それは大きな投票のときに後退を見ざるを得ないということは当たり前だろうと思います。しかし、それをやらざるを得なかった自由民主党だったのだと思うし、日本の政治だったのではないかと思っています。特に、ビッグバンというのをやらなきゃよかったじゃないかということを言われますけれども、しかし、時はもう許さなかったのだろうと思っています。低金利で、その収益で不良債権の処理ができるかと思っていたけれども、しかし、それができないということがわかったときに何らかの手を打たなければならなかったという見方もありますし、その不良債権の深刻さということを十分に考えずに改革に走ったのではないかという見方もあります。いずれにしろ、時は待ってくれなかったのではないかと思います。

4、5年前、ある若手の議員が、「先輩、ショックでした」って海外から帰ってきました。ドイツに行ったら、中堅銀行マンが、日本の銀行マンより我々の能力のほうが最近ぐっと上がった、いずれ、新しい技術で日本の金融界を我々が席捲してみせるからね、日本はたやすい、こんなことを生意気に言うんですよと言いました。私も、冗談じゃない、ドイツがなんだと思いましたけれども、やはり護送船団方式というのは力を落としてきた部分があったのかなとその時感じました。特に銀行にはかなり有力な人材が行っておりますので、その人たちの能力をフルに発揮させてきたのだろうかという点を考えると、ある意味ではまだまだ可能性がある、エネルギーがある部分を、この社会はぐいぐい発揮させていなかったところはなかっただろうかという気が最近はしております。

いずれにしても、この国のシステムを直すことに手をつけざるを得なかった橋本龍太郎という人。そしてその橋本さんが、1つのビッグバンという改革で終えればよかったんだけれども、6つも一緒にやり、手をつけたというところが間違いだったのかもしれませんし、それから、もうちょっと役所の文章から離れて、テレビで、自分の体臭とにおいがする言葉でもっともっとやさしく説得したならばもっとよかったのかもしれない。しかし、それはある意味ではなかなかそう簡単に身につくものではなかったのかもしれないと思っております。幾つかの改革をすれば必ずけいれんは起きます。しかし、日本経済というかわいい子を重病から救うには必要なオペレーションですから、ご家族の方はそこをじっと耐えて見ててください。そしてオペが始まった途端にけいれんが起きた。そのとき私が言いましたように、この痛みとけいれんというのは、言ったでしょう、くるんです、しかし、ここを乗り越えなきゃならんのですということをしっかりと事前に言ったならば、もっともっと違った結果になったのかもしれない。いずれにしろ、改革ということと、それを受けとめる国民の忍耐力と、そしてその橋渡しをする政治家の説得能力というものが問われていた1年であった。そして、実はこれから2、3年もそうあり続けるに違いない、最近、つくづくそんなふうに思っています。

若い世代の信頼獲得が大事

2番目の敗戦の原因は、1週間前の恒久減税発言であります。多分、多くの若者はあの発言にかなり反発したのではないか。どうも最近、若いジェネレーションの反抗があるのではないか。昔の若い世代というのは、自民党なんてね、アメリカ帝国主義のね、とかいうイデオロギー的な反発であったんですけれども、今は大学の中にも自民党を支援する会なんかできるぐらいですから、そういったイデオロギーではありません。ただ、自分たちの世代にどれだけの借金を先輩世代が残すのか。自分たちが今払っている年金はちゃんともらえる世代なんだろうかといったジェネレーションの間の相克、にらみ合いというのが始まって、自由民主党というのは、そういう部分についてはしっかりと先々を考えながら減税の話をするだろう、財政の話をするだろうと思っていたら、その自由民主党でさえ選挙目当てに減税をふらっと言ってみたり引っ込めたりする。それだったら何も自民党でなくたっていいじゃないかみたいな反抗があったのではないかと思います。家父長的にしっかりとバックボーンを支えているはずだった政党というものが、その信頼を失ったときには大きな反逆を受けるのではないかという反省を、我々はしなきゃならんのだと思います。

それから、もう1つ、これは特に私自身の強い反省なんですが、幹事長を3期やりまして、3つの仕事があると思いました。1つは自由民主党の総理大臣をつくること、これは私はやりました。橋本政権で復帰いたしました。2番目に衆議院で過半数を取ること。選挙では239、過半数には到達しませんでしたが、その後、自民党に期待を持っておられる方があればいらっしゃいませんかと言い、251の過半数を達成し、その途端に265までいきました。私は去年の9月、この251という衆議院過半数、これをしっかりと確立して、そして幹事長をおいとまいただくという気持ちで、去年の9月18日ぐらいに251になったんです。そうしたら、橋本さんからもう1期どうしてもやってほしいということでやるようになりました。それから、265になりましたけれども、その途端にやはり自民党の中におごりが出てきたのかなと。みずから一生懸命戒めていたけれども、党内には、もう過半数取ったんだから、土井さんの言うことを聞くことはないという発言を総務会でする人があらわれてきました。一方、土井さんにしてみても、それから、武村さんにしても園田博之さんにしても、もう我々は要らないんでしょうと。いや、違うんです、要るんですと言っても、自民党内の声を聞くとどうですかね、加藤さんは我々に理解があるけどという声になりまして、そして土井さんは、やはり自民党の気持ちを確認するためにも、より強い自由民主党に対する要求みたいなものを言うようになりました。それはまた自民党の中に、何で土井さんにあんな要求されなきゃいかんのか、なぜ、5人のさきがけから金融・財政分離問題について、あそこまで自民党は引っ張られなきゃならんのかという発言になり、そして、だんだん距離が遠くなっていったように思います。それと同時に自民党の支持率は下がっていったようなところがあると思います。まだまだ今の日本の政治の中に、そしてドイツの政治の中に、過半数を取って、上下両院とって、そして、権威があるだけの政党が生まれる素地、そして、ビジョンが出ていないのかもしれません。だから、単独過半数で衆参やるということが、これから9年ほどなかなかできませんけれども、やはり、国民の判断は各政党それぞれ意見が違うけれども、そんなに大きく基本的なところで違わないんだから、1党だけで独善的なことをせずによくよく意見を聞きながらやってほしいということだったのではないかという気がします。

自由民主党が巨象のように大きい姿でありながら、社民党とかさきがけの意見を必死に聞きながらまとめようとしていた汗というもので共感を得た部分があるのではないか。そう考えると、今、国鉄法案のときには社民、自由と一緒にやり、金融再生法案については民主とやり、銀行の早期健全化の法案については、今度は自由とやる。そうやってますと、疲れてきまして、何とか楽な固定したフレームワークをつくりたいと。新聞にいう自・公・自みたいなものをつくりたいというふうに、ともすれば思ってしまいますけれども、ほんとうに安定した楽な体制というのをつくった途端に、実は、そこは国民が汗を流すのをやめたなと見抜くおそれはないだろうか。実はその辺はよく考えておかなければならないところではないかと思っております。

政治家が本来のしっかりした仕事をしなければならない

いつも申しておりますように私は、日本人が持っている、日本の社会が持っている、そして日本の資本力が持っているエネルギーと可能性を全部発揮させればこの国は大丈夫だと思っています。絶対に大丈夫です。ただ、このシステムチェンジをするには、数人の総理大臣と4、5年の年月がかかるかもしれません。第一回目の先発投手、橋本龍太郎氏は必死にやりましたけれども、3回裏で打ち込まれてしまった。今、かわりの投手が必死にやっているということなのではないかと思います。これ、若干の時間がかかるかもしれませんが、そこから先は、私は大丈夫だと思っています。いつも言っているように日本には可能性があります。

10年前、日本の資本力がガッと世界に出ていって恐れられて、BIS規制というのをかけられましたが、今、アメリカのヘッジファンドがレバレッジというか、何か膨らませた感じで、金融資本力でマハティールをやっつけ、そして、インドネシアをやっつけ、世界を暴れ回っておりますけれども、いずれそれは罰を受けるだろうと思いますし、規制していかなければいけない世界だろうと思います。マハティールは昔から反米でありましたけれども、しかし、最近の国内の権力闘争の問題は別にして、やはりちょっとした外資の動きが一国の経済をすべてぶっ壊してしまう、それは大変なことじゃないかと。

日本の経済はGNP500兆ですが、マハティールさんのところは10兆であります。日本の2%であります。お隣の韓国だって、おそらく今、45兆から50兆であります。日本でも国際金融資本のヘッジファンドの動きに一喜一憂したり警戒感を持つ中で、シンガポールの10兆、インドネシアの20兆、こういうような国のGNPがひとたまりもなく襲撃を受けてダウンしてしまうというのは当たり前のことであって、今、我々のやらなければならないテーマは数多くあって、しかし、それを一つ一つこなしていけば、私は日本はしっかりとすると思っています。ウォール街もおかしくなったわけでありますから、そして、世界全体もおかしくなったわけですから、日本が安定することによって、世界の回復を引っ張っていくというふうにならなきゃならんと思います。

今の状態でこんなこと言えるのかと、それに国会を見てると、もたもたし過ぎているではないかと言われるかもしれません。そのとおりです。しかし、政治が判断をしなきゃならんときに、その判断をする蓄積、用意、知識、決断力の準備は十分できておりませんでしたが、日々、その力を今、政治はつけつつあると思っています。時には政治家が役人並みに細かいことを言ったり、時にはいろんな感情で対立したりしておりますけれども、しかし、政治が本来の仕事をしなきゃならんというところに追い込まれて、そして、日々必死の思いで、自民党にいる人間であれ、自由党にいる人間であれ、民主党の若手でも日々必死にやっています。ともすれば土・日にゴルフに行くという国会議員たちが、土・日に経済の論文を読んで過ごして、そして翌日論争している。最初は細か過ぎるかもしれません。しようがないでしょう、素人なんだから。それが勉強した枝の中に入り込んで行って、幹を見なかったりする場合だってあると思いますが、最初から百点満点なんか、どの業界だって、どの分野だって取れないという意味で、政治の新しい動きを見つめていただきたいと思っています。そして、その中から、この国のあり方について、理念と、具体的にこうやれば景気がよくなるといったしっかりとした具体的な政策が出てくるだろうと思っています。それは科学技術であるかもしれません。

それから、年金制度が今のような論争だけじゃ足りないし、401K確定拠出型がいいなんて思っていたって、アメリカのポータブル年金を持っている人たちが、ミューチュアルファンドでヘッジファンドに預けて、そして、ウォール街で失敗したならば、ほんとうに401Kでいいのだろうか。そして、日本の企業年金はどうあるべきか、必死に議論したときに新たな年金制度の問題が出てくるし、そこから安定したものを生み出すことは必ずできると思っております。なかなか難しいシステム変えですけれども、私は日本の資本蓄積と技術開発力と、そして何よりも増して、このヒューマンリソースです。優秀な人間というものでやっていけば、私は必ずこの国は大丈夫な国にできると思っておりますし、やれると思っています。

今1番政治が弱々しく見えるときでありますけれども、それもいま一つ、産みの苦しみの前の作業だと思っていただきたい。そんなに時間がないということも我々は知っております。しかし、必死にこの国をもう1回再生させていきたい、そんな役割を樋口さんも戦略会議でおやりいただいておりますけれども、我々もこれからしっかりとしたビジョンを立てて、この国を引っ張っていきたい、そんなつもりで努力をしてまいりたいと思います。

 なかなか難しい仕事でございますけれども、頑張ってやっていきたいと思いますので、どうぞ皆さんから末永くご交誼をお願い申し上げます。

この国の再生を力強く訴える加藤・前自民党幹事長
「独善を戒めなければ」と語る加藤・前自民党幹事長

 

 

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