中国がWTOに正式加盟したことで、企業は「13億人市場」に一段と引き寄せられそうだ。日本の消費者は、安い輸入品の恩恵と、工場移転による雇用不安の両方と向き合うことになる。外務省時代に台北や香港、中国課に勤務した加藤紘一・元自民党幹事長に、中国との付き合い方などを聞いた。
――製造業の「空洞化」が止まりません。
「91年に冷戦構造が崩れ、社会主義圏の低賃金労働力が世界市場に押し寄せた。人口が3分の1の東独を統合した西独は、5年あまりも塗炭の苦しみを味わった。中国の人口は日本の10倍。隣に中国を抱える日本は、空洞化を含め西独の30倍の困難に直面している、ともいえる」
「中国は市場経済になじみ、ネギの種と植え方を提供すれば見事なネギを作る。縫製設備と管理システムの供与で『ユニクロ』を生む」
「かつて労働生産性で米国を追い上げた日本だが、今度は追われる側に回った。これからは、経済の方向性を描いたうえで、中国から生産面の協力を得なければならない。政治がなすべきは、科学技術予算を増やして、知的資産と先端技術を生み出す能力をつけることだ。『永田町』は気づいていないが、公共事業とはけた違いに少ない国費で効果が上がる。戦後の世界政治は核の力で決まったが、今後は技術だ。途上国に技術移転を進めてくれる国こそが力を持つ」
――中国の輸出攻勢を前に、人民元引き上げ論も出てきました。
「この問題を日中間で提起しても、中国は上げるとは言えない。輸出で外貨を稼いで国内の生活水準を上げるため、しばらくは猶予を求めるに違いない。だが、30年前の1元=150円に対し今は14円で、円の価値は10倍だ。この水準が適当かという議論を始めなければならない」
「WTO加盟を機に、IMF(国際通貨基金)など多国間の場で変動相場制への 移行論議に入るべきだ。実力に応じて相場が動けば、中国も納得いく。80年代に米国が日本に自由化を求めた円ドル委員会の時代より流れは速い。5年前後で変えられる可能性もある」
――ネギなどの農産物が口火を切った日中間の通商摩擦の行方は。
「日中間は相互の力を過大評価し、いがみ合う構図が根底にある。中国は日本の経済力と軍事力を恐れ、日本は人口、文化ともに大国である中国のナショナリズムに嫌悪感を持つ。ネギから靖国問題まで、ていねいに扱わなければならない」
「WTOの場が用意されても、日中間の政経のパイプが太くなければ経済摩擦が思わぬいさかいを招く。対中関係が弱い日本では、米国の連携相手としても魅力に欠ける。互いに大国の米中は屈託なく対立と協調を繰り返すから、日本はその振り子となるべく、パイプを築く努力が必要だ」
── 了 ──