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加藤紘一さん、日本の政治は本当に変われるの!?
コスモポリタン
2001年6月号からの転載

「乱」に倒れてから7カ月。
針のむしろの上から見た、小泉政権の実態は!?

変革を掲げて圧倒的な支持を誇る小泉新政権。それを熱く見つめるのは、昨年秋の「加藤の乱」に敗れた、自民党代議士・加藤紘一氏だ。改革の先駆者だった彼自らの失敗を踏まえて今、聞きたい!「政治は変われるの?」「小泉内閣、真価の分かれ目は?」

加藤さん、誕生したばかりの小泉内閣を、どう思いますか?

「小泉首相はまさに今、“ビッグ・ウェンズデー”の大波の上でサーフィンしているところかな。」

── 小泉内閣がスタートしましたね。自民党が変わった!日本も変わるかも!?とワクワクしてる人が多いようです。でも、もしかしたら小泉政権も、包装紙を変えただけで、中身は今までと同じなのでは?とちょっと疑ってしまいますが。

【加藤】 イヤァ、まだ2カ月たらずで、変わったかどうかを判断するのは早すぎます。これから、やってみないとわかりませんよ。

── では、やってみて、変わったかどうかは、どこで判断できるでしょうか?

【加藤】 小泉さんはここ数年、郵政三事業の民営化(注1)ということを言ってきました。郵便事業と宅配便の関係に、どう手をつけるか?郵便貯金や簡易保険が実際にどう運用されているのか、についてなど。それがこの1、2カ月で与野党の激しい議論になると思います。

 そこに本当にメスを入れられるか、ですね。だって役所とのケンカになっちゃいますからね。攻めてくる相手に、どう対応し、改革できるかです。6月後半がピークかな。それによって、改革がホンモノであったかどうかが、わかると思いますよ。

■ 新首相を生んだ国民の意識と党内意識にギャップも?

── 今回の小泉新首相の誕生劇は、実際には自民党という党の党員による「党首選」だったにもかかわらず、なんだか首相公選をやったみたいに盛り上がりましたね。

【加藤】 総裁選の翌日だったかな。夜10時ごろ、ワインバーヘ行ったんですよ。そこにテレビ局の報道部のスタッフがいてね。ニュースキャスターの女性が「日本の政治が変わってよかった」と言うんです。でも選ばれた直後、小泉さんが、7月の参議院選挙勝利のためのシュプレヒコールをやったのを「あれはないですよー!」って言うんです。「だけど、わが党の総裁選なんですよ」と私はわざと言ってみた。そうしたら彼女、「だけど、自民党勝利のために小泉さんを応援したんじゃないですよ」と言うんです。彼女はそもそも自民党員ではないから、一票を投じたわけではないはずなのにね(笑)。

 それを聞いたとき、「ああ、去年のあのとき、『加藤の乱』と世間に呼ばれたあの決起(コラム1参照)のとき以来私が苦しんできた、永田町(注2)と国民の意識のギャップがまたここに現れている」と感じましたね。

 小泉政権が誕生したのは、多くの国民の、自分たちのリーダーを求める気持ちが、うねったからなんです。問題は、今の政権の内部にいる人たちが、それを理解できているかどうか、ですね。

■ サーファー小泉はこの大波を乗り切れるか?

── 自民党の従来の体質や、反対勢力は小泉さんの行く手をはばんだり、チクチクいじめたりしそうに思えますが(笑)。

【加藤】 そう、小泉さんは大きな波の上でサーフィンをやっているようなものかな(笑)。昔、アメリカ映画で『ビッグ・ウェンズデー』というのがあったでしょ。あんなビッグ・ウエーブ。

この大波は、波の性格、方向、大ききを見あやまると、サーファーは砂浜に打ちつけられて大けがをするかもしれない。

やせたサーファーが、一番大きな波の上で、目つき鋭くバランスをとっているんですよ、今(笑)。

■ 小泉さんを首相にした功労者のひとりなのに、大臣にならなかったわけは?

 その小泉さんを首相にした、自民党の改革の火付け役は、そもそも加藤さんではないか、という見方もできます。総裁選でも、いち早く小泉さんを応援なさってましたし(コラム2参照)。だから、今回の小泉内閣で、加藤さんにぜひ入閣して小泉さんと一緒に改革をしてほしかった、という声は多かったのでは?

【加藤】 今回は、入閣は頭っから考えていなかった。大臣になると、毎日のルーティンワークとして20分、30分刻みで仕事が来ますからね。それより自分には、ここしばらく、別の仕事があると思っています。

 今の小泉ブームというのは、半分は「自民党を変えて、いい政治をしてほしい」というのと、あとの半分は「自民党をなくして、それを超えた新しい政治をしてくれ」という混合体なんですよ。

 それは政冶運動ではなく、もう社会現象です。そのうねりの質と大きさを、誰かが冷静に見ていないと、判断をあやまりますからね。

── じゃあ、サーファー小泉を、加藤さんは浜辺でウォッチですか?

【加藤】 まあ、そうです(笑)。

昨年秋の「乱」の失敗は感度の鈍さから、かな
「日本人は真剣に変化を求めている。それを読み取れなかったのが僕の失敗」

── そうやって、この内閣の行く先を見つめているのは、自民党員としてですか?それとも、一政治家として?

【加藤】 政治家として、ですね。

 昨年11月の決起は、私にすれば自民党内のドラマというつもりで始めたんです。一幕もののね。森総裁が交代すればいい、と。

 ところが国民は、自民党が壊れて政界が再編されることを期待していたんですね。そこで、私がことをおさめた(不信任投票をあきらめた)あと、抗議のファクスとメールが殺到したんです。「いったい何やってるんだ!」ってね。

 それをのあたりにするまで私は、国民が、一幕どころか五幕、七幕、フィナーレ―つまり、自民党政権の幕引きまでを自分に期待しているなんて、わからなかったんです。

 去年の夏ごろから、森総裁を決めた密室協議以来、国民の間にマグマがたまっているな、って感じてはいました。その点については、森さんよりも、野中さんよりも、自分のほうが先に気づいてるよ、という自負があった。でも、結局何もわかっていなかったんですよ。国民との間のギャップをね。だからあんな中途半端なことして、ブザマな失敗をしたってわけです。

── ギャップに気づかなかったのは、永田町という特殊な世界で暮らしていたからですか? それとも驕りがあった?

【加藤】 驕りというより、感度の鈍さかな。

 私は、最後の場面で判断ミスを犯しました。国民のうねりに気づかないまま「森首相を退陣させる」という野中さんの意思表示(コラム1)を信じて「それでは」と旗を降ろしてしまった。政治的な未熟さがあったんですよ。だからあれからずっと、針のムシロの上にいるんです(笑)。

── あのときあんなに加藤さんに期待した人に対しては、どう思っていますか?

【加藤】 期待を裏切った“借り”は残っているなあ、いつか返さなくちゃ、と、考えてはいます。

日本の政治は、自民党は、これで本当に変われますか?
「小泉政権は確かに革命的。でもね、まだ何かあるんじゃないかと僕は思っているんですよ」
党も派閥もない。この国はどうなる?と、みんな真剣です

── 小泉内閣と国民の間にも、同じギャップがあるかもしれない?

【加藤】 とにかくこの、国民のうねりっていうものは、なんか小泉政権だけではおさまらないようなところがある。僕はそう思いますね。いわば東西冷戦構造崩壊の国内版。つまり、これは歴史的な段階なんです。

 4月15日にね、私はまれな体験をしました。渋谷のハチ公前に1万2000人の人たちがひしめきあっていたんです。総裁選の演説をしながら、小泉さんと、山崎拓さん、田中眞紀子さんと私の4人だけが、車の上の演説台からその光景を見られた。

 みんな、党も派閥もどうでもいいんですよ。それよりも、「この国をどうしてくれるんです? 年金は大丈夫ですか? 私の介護はどうなるのでしょう?」と、真剣な目、目。「ああ、この人たちがいる!」と感じましたね。

 その視線を言葉で説明するのは難しいんです。政治家ひとりひとりが、それを自分で感じなくちゃ、と思いますよ。

 私は、昨年秋から、全国行脚に出たんです。全国のいろいろな場所で、いろんな人の意見を聞きたいと思った。これがもっかの私の仕事です。アナログで人に接して、自分をさらして、限界を広げようとね。

── 今はやりのIT革命とは逆のやり方ですか。

【加藤】 いえ、ツールとしてはインターネットです。ネット上で募集しました。そうすれば、しがらみのない人たちと接点ができるから。これまでの人脈や紹介ルートで行くと、どんな形にしろ、みんな身内みたいなものでしょ(笑)。平均50〜60人の小さな集会で2時間ずつ話す。3月には20カ所以上行ったかな。

── それって大変な労力ですよね。

【加藤】 そんなことして何になるのか?ってよく言われます。「票のためなら、自分の選挙区を歩け」ってね。

 「自分の意見を広めるなら、日曜日のテレビに30分出て、そこでうまく話せばすむことじゃないか、一挙に何百万の人が見てくれるぞ」とも言われます。でも、ひとりひとりの人と会って、声を聞き、思いを伝えることに意味があるんです。

── 加藤さんから、そのひとりひとりに伝えたいことは何ですか?

【加藤】 日本は今、大変な状態だけど、みんなで覚悟して難問を片づけていけば、その先は大丈夫ですよ、夢があります!と言い続けています。一生懸命に。

── どんな夢があると?

【加藤】 ひとつは、この国は知恵で勝負するんだ、という原点にもどりましょう、ということです。基礎的な科字技術研究と技術開発。同時に、日本人が持ち続けてきた、自然に対する敬意の気持ちを大切にする。

 知的な国づくりと、緑と自然を敬う国―ジャパニーズ・ウエイ・オブ・ライフ。日本人としての誇りを探り、それを毎日の生活の中で実感したり表現したりしていくことが必要なんじゃないかなあ、と考えるんです。

── 自然を大切にすることは、公共事業を進める自民党体質とぶつかるのでは?

【加藤】 そこの議論も出てくるでしょう。じゃあ河川の堤防は全部コンクリートでいいのかとか、環境をキレイにする事業はないのかとか、どんどん夢を議論すればいい。

失敗したり、裏切られたり。「政治家なんてやめちゃいたい」って思ったことはありませんか?

やめちゃいたい、と思うこと?そりゃ、ありますよ
「今、みんなが政治について語りたい、と思い始めている。特に20代と主婦層かな。楽しいですよ」

── そうした加藤さんの考え方は、自民党のやり方と違って見えますが、それでも自民党員でいるのはなぜですか?

【加藤】 うーん、自民党は、大きなエンジンをつけている自動車みたいなものですからね。ちょっとハンドルを動かしただけで、大きくカーブが切れる。何かをやろうと思ったときには、やりやすいという面があります。少なくとも、これまではそうでした。

── でも、変わる変わる、と言っていますが、結局、派閥(コラム3)もそのまま。

【加藤】 派閥はいらないと思いますよ。そうした自民党のシステムはもう終焉に近づいています。ただ、同志はいないと仕事はできないから、最低5人かな。必要なのは。

── でも同志といえども、いざというときに寝返ったりもするわけでしょ?うわさでは「加藤の乱」のときには、お金やポストで動いた人たちがいたとか。そんなことがあると、もうこんな世界イヤだ、政治家なんてやめたい!って思いませんか?

【加藤】 (笑)フフフ。そりゃ、ありますよ。

 でもね、それはそれとして、私にはまだやりたいことがいっぱいある。「日本の男性はブレア首相になれるか?」というのもそのひとつです。男が育児休暇を取れる社会でなければ、女性は幸せにはなれませんよ。国民年金だってそう。

 年金問題で、20代前半の人が政治に関心を持ち始めたんですよ(注3)。主婦層もすごい。子供を育て上げたあと、自分の残された35年をどう生きようか、ということで政治を語り始めた。それは、最近感じる大きな変化ですね。楽しいですよ。

── みんなの気持ちが政治に向いてる。

【加藤】 それは、こう言ったら悪いけど、ある種、森さん(前首相)の貢献かな(笑)。戦後最大の政治意識啓発者でしょう(笑)。

 森政権があった。長野の知事選があった。栃木も千葉もあった。そうした中で、一挙にみんなが「政治をわかりやすく考えよう」ということになっちゃった。

 だけどね、これだけまじめに、政治のこと、国の将来のことを考える人たちが増えていく社会は、希望のある社会だと思います。この国、大丈夫ですよ。

── その声に政治はこた応えてくれます?

【加藤】 “借り”は返すつもりですよ(笑)。

おさらいコラム1
いわゆる「加藤の乱」とは
 2000年11月、支持率が低迷する森政権に対して加藤氏は倒閣を宣言。動揺する自民党を見て、野党は森内閣不信任案を提出。11月20日の投票日に向けて世論を大きく揺るがす大波瀾となった。時流は加藤勝利か、と見えた投票前日、加藤氏とテレビ対話した野中広務自民党幹事長(当時)が「森総理は早期退陣。今回はおさめて」との趣旨で発言。加藤氏が投票日の欠席を決めると、世論は猛反発。思い直すが、すでに味方の多くは離反し、出席も阻まれ投票も断念。辛酸をなめる。 ▲もどる

おさらいコラム2
小泉政権誕生劇
 支持率もいよいよ低迷、失言も乱発の森政権末期。野党の不信任案を3月に否決したばかりの自民党は一転、総裁選の前倒し、という形で森退陣を実現させた。後継者選びは難航したが、結局最大派閥の橋本派から橋本龍太郎元首相を総裁に担ぎ出そうとする動きが主流に。しかしそこに小泉純一郎氏が出馬。まず田中眞紀子氏が推薦人に。そこにかねてYKKと呼ばれ、盟友といわれる加藤氏、山崎拓氏が支持を打ち出すと、戦況は地滑り的に変化。旧来の派閥主導の政権運営への党員の危機感や、橋本総裁では参院選に負けるかも、との地方議員らの保身意識もあってか、小泉氏は橋本・麻生太郎両氏を相手に予想外の圧勝。小泉政権が誕生、と相成った。 ▲もどる

おさらいコラム3
派閥
 森政権末期も「森派の一員として首相を支える」と言い続けた小泉氏。が、総裁選への出馬を前に、派閥を離脱。無派閥で当選し、首相となった。そして今、参議院選挙に臨む候補者らに「脱派閥で行け」と呼びかける。しかし現職議員は相変わらず各派に分かれたまま。新内閣では派閥の順送り人事や頭数合わせこそなくなったものの、各派がほぼ頭をそろえた格好。森前首相も脱派閥どころか、森派の代表に復帰。やっぱり派閥は不滅、か!? ▲もどる

注1・郵政三事業の民営化
 小泉首相の長年の持論である、総務省内の郵政事業庁が兼営する金融・保険・郵便の三事業の民営化をさす。上記事業が、民間の同種の企業の経営を圧迫しているおそれがあること、郵便貯金に集まった資金を原資とした政府による財政投融資が、各種特殊法人などに貸し付けられ、不良債権化しているシステムを見直す必要があること、などが民営化が必要な理由とされている。
 その第一段階として首相は、同事業を平成15年までに公社化する、と明言。しかし採算に関係なく全国一律のサービスができる郵便局の消失などに懸念の声もあり、自民党の支持基盤でもある全国の特定郵便局などからの反発も必至とされる。 ▲もどる

注2・永田町
 国会や自民党本部のある、千代田区永田町。転じて一般社会と乖離(かいり)しがちな「政界」の代名詞に。 ▲もどる

注3・年金問題
 かつては学生は免除されていた国民年金保険の掛金だが、'91年以降、20歳になった時点で全員に支払い義務が生じるようになって負担感が増した。しかも'62年以降生まれの人は払った分の年金額がもらえない、と言われている。その問題を切実に感じるのか、加藤氏の周囲でも20代前半の政治参加意識が“熱い”そう。ただ「年金で集めたお金が損失補填などに使われている、と勘違いして怒っている人も多いのが残念。年金は年金。でも改革は必要。どんどん論議しましょう」と加藤さん。 ▲もどる

── 了 ──