21世紀の産業を考えると、知的財産権は国家戦略として位置づけるべき重要性を持つ。科学技術振興のよき理解者であり、関連予算の獲得にリーダーシップを発揮してきた衆議院議員・加藤紘一氏に「科学技術立国」のための政策、ビジョンをお聞きした。
〜聞き手 株式会社 東京リーガルマインド代表取締役 反町勝夫〜
■ 1文字100億円のキャッチフレーズ
【反町】 知的財産は今後、日本としてもっとも力を入れていくべき政策テーマのひとつだと思います。本日は、科学技術関連の予算拡大に尽力され、著書(※1)においても、知的財産権庁や特許裁判所の設立を提言されている加藤先生に知的財産に関するビジョンをうかがいたいと思います。初めに国家戦略という観点から見た科学技術の振興ということについてお聞きします。
【加藤】 歴史を振り返ってみますと、戦後、冷戦時代にかけては国際政治に力学は軍事能力、端的にいえば、核の能力が決定していました。ところがソビエト体制が終焉して、ベルリンの壁が崩壊しますと、核兵器に代わって金融(マネタリーマネジメント)が国の経済を左右する時代になったのです。借款や援助、直接投資という形で諸外国に対して資本を供与できる国家の発言力が増したわけです。わが国も、アジアの金融危機から各国が立ち直る過程で果たした役割などを考えますと、そういう部分では、かなりしっかり発言しうる位置におります。
ただし私はいつまでも資本が最重要な要素であり続けると思いません。10年後、国際政治における国家のポジションを決定づけるのは技術移転能力になっていると思います。事実、日本と韓国との関係はすでにそのようになりつつあり、資本ではなく、技術が求められるようになっています。
やがて高度な技術を開発して、それを寛大に他国に分け与えられる国家こそが国際政治を舞台にして強い発言力を持つ時代が来るはずです。日本がそうなるためには、移転できるだけの技術の蓄積を保有しなければなりません。つまり国益という観点からも科学技術の振興、とりわけ基礎研究を一所懸命にやることが必要だと考えています。
【反町】 加藤先生がこれまで手がけてこられた科学技術振興の施策についてお聞きしたいと思います。
【加藤】 とくに基礎的な科学技術研究の振興には一所懸命力を入れてきたつもりです。
平成6年に「自社さ政権」が成立しましたが、そこで私は自民党政調会長として、三党の政策調整会議の座長を務めていました。当時、急激な円高が進んで、平成7年4月には、ついに1ドル79円75銭をつけました。円高の進行にともない、製造業はどんどん海外に出て、産業の空洞化という流れが出てきたのです。そのとき、将来を考えると日本は知的な産業に特化していかなければ、国家としての存在基盤を危うくしかねないと考えるようになりました。
当時、自民党の政調会長として政策の枠組みの取りまとめをしながら、大きな矛盾を感じて、その思いをさらに強くしました。
私の同郷の先輩に、国立がんセンターの杉村隆センター総長がいます。その杉村さんに「基礎研究をしている研究者にとって、一番大口で、励みになる資金は文部省の科学研究費補助金だ」とお聞きしたのです。当時、予算規模は850億円くらいでした。
【反町】 科学技術の重要性からすれば、日本の国家予算としては決して大きな額ではありませんね。
【加藤】 しかもその額が遅々として伸びないというのです。杉村さんはその分野の世界的権威であり、日本を代表する科学者の一人でもあります。その杉村さんから「科学研究費補助金はわれわれにとっては命の網で、それを1000億円にするのが研究者の夢だ」とお聞きして、ハッとしました。
一方では当時、景気対策のための公共事業費として、8兆5000億円を5000億円増やして9兆円にするか、それとも3兆円追加で単発にしようかといった話をしていたわけです。どうして科学研究費補助金はなかなか増えず、公共事業費のほうは大判振る舞いをするか。それには一応理屈がありまして、橋や道路といった公共事業は50年、100年先まで財産として残るものだから、良い借金であり、建設国債という概念でとらえる。そういうことになっているわけです。
【反町】 それにひきかえ、研究費のほうはあくまでコストであると。
【加藤】 いわば学者の給料などになって生活費として消えていってしまう経費だから、赤字国債の対象とされていたわけです。
法律でいえば、財政法第4条に公債発行や借入金は「公共事業費、出資金及び貸付金の財源」に限って認められるという歯止めがあります。なるべく借金をしないための仕組みがあるため、他の政治家や大蔵省を相手にして、基礎研究を建設国債の対象とすることを説得するのはなかなか骨の折れる作業でした。
そこで私は当時の文部省、科学技術庁、通産省の若手官僚などに「10文字以内でその矛盾を解くキャッチフレーズを探してほしい」と頼んだのです。「1文字につき100億円の予算がつくかもしれない」と。ところが、待っていてもなかなか良い回答が来ない。
そんなおり、東北大学学長をされていた西沢潤一さんが「『知的資産』という概念で取り組まれたらどうですか?」とおっしゃられた。
これでいける、すぐにそう感じました。そして平成7年度の予算編成のとき、「知的資産の形成」というキャッチフレーズを用いて大蔵省主計局の説得にかかりました。
【反町】 橋や道路ばかりが後世に残る資産ではないということですね。確かに、マイクロソフトのソフトにしても知的生産物ですが、後々まで大変な富を生んでいます。
【加藤】 要するにニュートンの発見が後の世に、どれだけの大きな貢献をしたかということです。考えてみれば、ちょっとした知見、ちょっとした発見が、数百年、あるいは数千年後まで人類の財産として残る可能性があるわけです。たとえばヒューマンゲノムの実体であるDNAは約30億対の塩基から構成されていますが、それを解読して、知的財産にすることができれば、将来、人間の生命、病気に対してどんな手を打てるか分かりません。
【反町】 まさに減価償却のない、無限の富となる可能性もあるわけですね。
【加藤】 知的資産の価値は何百年も残るのだから道路や橋と同じ財産であるという理屈を唱えて、1年間のやりとりの後、建設国債の対象経費として基礎科学研究費を入れる突破口をひらくことに成功しました。今、建設国債の枠で、その関連の予算が年間700〜800億円ついていると思います。「研究テーマ型予算」として建設国債で集めた金を基礎研究費としてさまざまな研究機関に出資したり、その他にも、「1万人のポストドクター支援計画」として、若手研究者を経済的に補助して研究活動を助ける政策などを行ってきました。
■ シリコンバレーの本質
【反町】 従来、日本は応用分野には強いが、基礎研究の分野に弱さがあると指摘されています。加藤先生が予算の拡大に道を拓かれたことは日本の国策としても大変大きな意義があると思います。一方、基礎研究の成果を現実の産業で活用していく体制を整備することも大切なテーマだと思いますが。
【加藤】 おっしゃる通りです。基礎研究のための予算面では、ここ4〜5年で大きな飛躍ができたと思っていますが、せっかく良い研究成果が出てきたとしても、それを知的財産権として結実させなければ意味がありません。その点、日本では特許出願のための事務手続きや、権利の帰属、活用方法、特許の技術移転などに関する制度が未整備であるといわれています。
基礎研究の成果を知的財産として権利化して、実用化していく。あるいはその権利の保護、侵害に対する防御なども含めて、しっかりとした体制を整えることが不可欠です。
その試みのひとつとして、TLO(technology licensing organization=技術移転機関)(※2)という機関ができました。大学で基礎研究の成果を特許として出願するとき、それを支援する機関です。だんだん増えて、現在、16機関になっていますが、それでもアメリカと比較しますと、まだまだです。出願件数を見ても、特許にまで行き着いているケースは少ない。いっそうの活用が望まれるところです。
ただ役所のほうも、だいぶその意識が出てきています。文部科学省も産学の連携を応援するようになっています。また霞ヶ関の機構改革で、経済産業省に大学連携推進課が設置されました。ここが産学の交流を進めています。
【反町】 大学で生まれた知的財産をビジネスに結びつけようということですね。
【加藤】 かつての学生運動では「産学共同」というのは悪のイメージでとらえられていたものですが、アメリカはまったく違います。近年のアメリカで経済発展の最大の原動力となっているのはITの発展です。それはスタンフォード大学とUCLAでの情報通信の基礎研究の成果を、民間が引き取って産業化していった成果なのです。その交流・交換の場というのがシリコンバレーという地域の本質です。大学で生み出された研究成果をすぐに知的財産化して、民間企業がフリーに買い取る。学者は対価を受けとって、また研究する。そういうシステムが形成されたのです。アメリカではITに限らずバイオテクノロジーでは、MITやハーバード大学の研究成果が製薬会社にどんどん渡っています。そのような産学の橋渡しをする業務は、これから日本のフロンティアを拓いていくうえで、きわめて重要です。
■ 弁理士の絶対数が足りない
【反町】 技術移転、あるいは研究成果を現実のビジネスに変えていくシステムを支える人的インフラの面に問題があるのではないでしょうか。
そもそも大学の法学部に知的財産権の研究者が少ない。昔ながらの民法などを教える先生がほとんどではないかと思われます。大学もより実務に密着した最先端の研究に力を入れていくべきだと思いますが。
【加藤】 これからは知的財産権の取得、およびそれを産業に結びつける活動、あるいは知的財産権の侵害に関する排除の分野の研究はますます重要になるでしょう。
【反町】 大学の研究室などの技術が生まれるところと、それを産業に結びつけるところの橋渡しの役割を果たすべき専門家となりますと、日本の場合、弁理士ということになります。それ以外の人がやろうとしても、そもそも学者の言っている技術の内容が分かりませんから。ところがその弁理士が不足しているのです。現在、司法制度改革の議論でも、弁理士を増やしていこうという意見が出ています。確かに弁理士試験の合格者は年々増えてはいます。昨年の弁理士試験合格者は255名でしたが、今年は300弱になるのではないかと予 想しています。それでも絶対数としてはとても足りません。
知的財産権を産業に結びつけることは弁理士の固有の仕事ではありませんが、弁理士も自らの重要な役割のひとつとして認識して、その分野の仕事を積極的に切り開いていくことが求められていると思います。
その際、権利をビジネス化する業務では、当然、契約手続きが必要になってきます。であれば、弁護士と同じような法的知識を身につけさせる研修が実施されてしかるべきです。さらに権利化後、紛争が生じたときの問題もあります。ここにも技術が分かる弁理士を入れていくべきではないのでしょうか。
【加藤】 知的財産権の保護については、これまで、日本はかなりお人好しにやってきた面があったのではないかという気がします。日本のコンピュータ産業、IT革命がアメリカに遅れたのも7〜8年前に、いくつかの日本の有力な先端企業が、アメリカから知的財産権の侵害等について、ゴツンとやられたことがひとつの原因になっているのではないでしょうか。
【反町】 アメリカがアンチパテントからプロパテント政策に転じてから、日本企業が知的財産権について色々な困難に直面しました。裁判で時間をロスしたくないといった理由から、簡単に和解に応じるケースもあったかと思われますが、やはり最後まで権利を主張していくスタンスを取らなければなりません。そういう意味でも、知的財産権に関するもろもろの分野はぜひ強化しなければならないと思います。
【加藤】 強化していかないと国益を害することになると思います。
【反町】 工業所有権法以外にも、種苗法の植物新品種利用権も、食糧自給率の低い日本にとっては食料問題という観点からも知的財産権は重要です。
【加藤】 弁理士が不足しているとのお話でしたが、裁判についてのマンパワーの不足という問題もありますでしょう。裁判官にしても、知的財産権分野では人材が少ないと思います。その体制もぜひ作っていかなければならないと思います。
【反町】 弁護士にしても、知的財産権を扱うことができる人材が少ないのです。
【加藤】 最先端の知的財産権の分野で業務を遂行できる弁護士は、日本全体で10人程度というような話を聞いたことがあります。
【反町】 弁護士と弁理士を兼ねて登録をしている資格者は270名くらいいますが、固有の分野の専門家ということになりますと、もっと少ないでしょう。医療過誤を扱うような医学の分野の弁護士はもう少し多いかもしれませんが、ITやバイオテクノロジーなどの先端分野の侵害訴訟に責任を持って受けられる弁護士となりますと、各分野、ひと桁かもしれません。
弁理士がする技術的な話についていけるといったレベルであれば、大手の特許事務所であれば何人か弁護士がいますが、そのような人たちも実際の訴訟で専門技術については、ほとんど弁理士に任せているのが実態といえます。
【加藤】 たとえばヒューマンゲノムの完全長cDNA(※3)に関する訴訟を、法学部出身の弁護士が扱おうとしても、生物学をゼロから勉強しなければならないというのでは大変だと思います。
■ 弁理士の訴訟代理権
【反町】 弁護士にそんな時間はないはずです。他にやるべき仕事が膨大にありますから。知的財産権の訴訟ができる弁護士が圧倒的に不足している。その状況を変えていくためには、侵害訴訟で弁理士が単独で裁判ができるようにするという方法があります。司法制度改革審議会でも課題のひとつとして取り上げられています。
特許庁も、昨年11月15日に「これからの知的財産分野の研修のあり方を考える懇談会」という中間報告を発表していますが、その中で、今回の弁理士法改正を実質化するために、業域が広がった分については研修を行って、その業務をしっかりできる実力をつけるべきという提言がなされています。
日本の状況を見ますと、弁理士に代理権を与えて訴訟に関与できるようにすべきです。また弁理士の間からも、ぜひそれを認めて欲しいという声があがっています。
【加藤】 その分野では、自民党では商工部会の知的財産権に関する小委員会の会長の甘利明さんがかなり突っ込んだ研究をされています。私も時間をみつけて会合に出席して、弁理士会と日弁連の話なども聞いていますが、現在の議論では弁護士と弁理士の共同訴訟代理ということになっていますね。法廷には毎回、弁護士と弁理士の両方が出なくてもいいのではないかという意見が出ているようです。
【反町】 訴訟遂行では、訴訟代理人たる弁護士がリーダーシップを取ることではいいのではないかということらしいのですが、そこまで代理人を弁護士にすることにこだわる必要があるのでしょうか。能力がある人がやればいいわけですから。
【加藤】 そう思います。
【反町】 弁護士と打ち合わせしておいて、弁護士は書面だけといっても、いっさい法廷に出ないわけにはいきませんでしょう。2〜3回休むことがあっても、やはり名前を連ねているだけではまずい。共同訴訟は弁護団形成と違います。訴訟の進行を考えますと、中身が中身ですから共同訴訟という制度には問題があると思います。弁理士は権利化の段階から訴訟に至るまで、一連の過程をもっともよく知っています。その案件についてもっとも詳しい専門家です。ところが訴訟代理だけ途中から入った弁護士が担う。
【加藤】 おっしゃるように最近の裁判では、色々な分野の訴訟が専門化、高度化しています。たとえば税に関する事件でも税理士がからまないと弁護士だけではなかなか処理ができないこともあるようです。
【反町】 弁理士に単独で訴訟を認める場合、その前提として能力の担保ということが言われます。新弁理士法の付則第6条でも新しい分野に応じた研修の義務を課しています。弁護士のほうは弁理士に訴訟代理権を与えることに難色を示すとき、弁理士は民事訴訟法が分からないとか、訴訟の実習をしていないと主張するわけです。
【加藤】 法律的な分野の研修ですね。民事訴訟法などの勉強をして、法廷技術を習得しなければならないと。
【反町】 まず理論をきちんとやる。そのうえに実習という二弾構えでやる。弁護士が行っているのと同じような研修を実施していけば、さしあたって文句はないのではないでしょうか。
【加藤】 その通りだと思います。
【反町】 また日本のみならず、外国の訴訟も関係してくるでしょう。これも理論になります。アメリカの民事訴訟法の理論的な勉強を入れることによって能力の担保が確保できると思います。
【加藤】 英語ができる必要がありますね。英語でも、英会話のほうが必要になってくるわけですね。
【反町】 弁理士の場合、出願書面は英語が多いので、英語には堪能な方が多くいらっしゃいます。今後、技術的な分野のことについて、しかもアメリカ企業を相手にして英語でやり合うということになれば、ほとんどの弁護士には戦える力は無いでしょう。やはり弁理士をアメリカと対等に戦えるようにして、表に出てもらうべきです。アメリカと互角にわたり合わなければならないということでは、まさに外交官並です。
【加藤】 弁理士さんは大変ですね。専門分野の知識を磨くのと同時に、法律の勉強をしなければならない。さらに語学力も必要だとなりますと、大変ですが、それだけにやりがいのある、大切な仕事だと思います。
■ 知的財産権庁と特許裁判所
【反町】 将来的な知的財産権のための基盤整備として、お考えになっている政策についてうかがいたいと思います。著書の中では基盤整備として、知的財産権庁と特許裁判所の創設をあげておられますね。
【加藤】 今、東京、大阪の地方裁判所に工業所有権に関する法廷を作っていますが、将来は独立した特許裁判所のようなものが必要になってくるのではないでしょうか。特許に関する裁判はきわめて専門的、技術的ですから。
【反町】 特許裁判所といっても、憲法を改正する必要はないはずです。最終的に最高裁判所に上訴できる制度になっていればいい。扱う中身が専門分野であるからといって、その裁判所は違憲ではありません。事柄上の専門性は合憲です。家庭裁判所も家庭の案件だけを扱っていますが、高等裁判所、最高裁と上訴できますから当然、合憲です。行政の専門もそうですし、税の専門もそうです。時代の変化にともなって中身が専門・分化することは当然で、違憲ではありません。
また加藤先生は知的財産権庁の構想も提言されていますが、その分野を推進することを国として責任をもつという主旨でしょうか?
【加藤】 今、工業所有権のことは経済産業省が所管して、弁理士が扱っています。著作権は文部科学省の所管で、行政書士に加えて弁理士も扱うこととなりました。その他植物新品種の保護となれば農林水産省もからむというように縦割りになっています。
アメリカの経済発展の要因としてITと並べて、金融技術力の向上が挙げられます。それが高度に発達したことによって、アメリカ自体にお金がなくても、地球上でお金のある場所、必要としている場所が全部分かり、お金をグルグルと動かすことによって、アメリカ経済が力強く復活した。そのようなデリバティブスなどの金融工学の知的財産権にしても、どの分野かちょっと判断しにくいところがあります。工業所有権なのか著作権なのか。またネットで音楽を配信するナップスターの裁判が話題になりましたが、あれは著作権なのかどうか。
【反町】 あるいはビジネスモデルに近いかもしれないですね。知的財産権はあらゆる分野にも関わりをもってくるわけで、もともと所管を決めにくいところもあります。とくに新しい権利については省庁横断的に関係してくることが多いようです。
【加藤】 そのようなことを考えても、総合的に知的財産を統括する部署を政府に置くことは必要です。
【反町】 モノの知的財産の分野はまだ良いかもしれませんが、最近のアメリカの動きを見ますと、加藤先生が指摘されるような面で不備が目立つようになっています。ビジネスモデルといった新しい権利が注目されていますが、そういう分野まで考えますと、やはり新しい枠組みが必要でしょう。
【加藤】 金融技術や音楽配信、いわゆるサイバー空間のソフトが工業所有権に入るのか、著作権に入るのか判別しにくい部分がいっぱい出てきています。そこをまとめていくとき、現在の縦割り行政ではどうしても処理できない部分がある。省庁間でやりとりしている間に、テキサスエラーのようにことが起きて、重大な国益の損失につながりはしないか。そういう議論のテーマがひとつ設定できると思います。
やはり知的財産権の全体にわたってコントロールする役所を置くべきではないか、それが私の考え方です。
【反町】 知的財産権を国家的な戦略課題と位置づけると、そういう旗振り役が必要です。あるいは総務省あたりかもしれませんが、そのようなところの調整機能を持たせることも考えられますか?
【加藤】 まずそういうところの調整機能を高めてみて、将来の構想につなげていくという手法が、ひとつの道筋として考えられるでしょう。第一段階として、たとえば内政室で調整することが必要かもしれません。
【反町】 アメリカと協調しながら、ときには言うべきことを言っていく。知的財産権のことでは、それが政治に求められていると思います。知的財産権を含めた新しいビジネスの分野を深く理解されている加藤先生に、ぜひリーダーシップをお取りいただきたいと思います。
【加藤】 知的財産は日本の経済、社会にとってフロンティアだと思っています。しっかりやります。
【反町】 政治家の方々で、知的財産権を分かっている先生は何人もいないということかもしれません。弁護士以上に少ないのではないですか(笑い)。
【加藤】 いやいや、甘利さんもよくやっておられるし、民主党の菅直人さんも弁理士です。
【反町】 先見性をお持ちの加藤先生にぜひ国家百年の計を立ていただきたいと思います。
【加藤】 一所懸命やります。
【反町】 本日はご多忙のところ誠にありがとうございました。
| ※1: |
『いま政治は何をすべきか―新世紀日本の設計図』 |
| ※2: |
「TLO」1998年成立の「大学等技術移転促進法」で実現した大学や研究機関の研究成果を産業界に移転するための仲介機関。TLOとして設定されれば最高2000万円の助成金が支給される等の優遇措置を受けられる。研究者に代わって特許などの権利を取得、活用する企業とライセンス契約を締結する。 |
| ※3: |
「完全長cDNA」メッセンジャーRNAの頭から尾までの完全な配列を写しとった遺伝子として、意味のある配列データ。 |
── 了 ──