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【司会】 皆様、お待たせをいたしました。
さて、本日最後のプログラム「新世紀日本の設計図」と題しました特別
講演でございます。講師は衆議院議員の加藤紘一さんです。加藤さんは、自民党の中核として日本が誤りなき道を進むために、日夜奮闘されておられます。
では、加藤さんに登場していただきましょう。どうぞ、皆さん拍手でお迎えくださいませ。よろしくお願いいたします。(拍手)
■政策論議見られなかったサミット
【加藤】 加藤でございます。21世紀に向けて我々の国がどういう道を進むべきか、その考えの一部を述べてみるようにというお招きをいただきました。大変光栄に存じます。
昨日、沖縄でのサミットが終わったわけでございますけれども、私はこの沖縄のサミットが大変盛会裏に終わったことをよかったと思っております。特に、いろいろなイベントがあり、そして、クリントンさんがキャンプデービットにおける中近東の和平会議という激しいスケジュールの中で、来られるか来られないか気をもんだ中で、予定どおりクリントンさんが来られ、そして、いろいろスケジュールが見事にこなされていったことは大変よかったと思っております。森総理大臣も、いろいろな方が心配されたけれども、ホストとしての役を、議長としての役を無難にこなされたと思って、皆で評価したいと思っております。
ただ、内容そのものにつきましては、サミットというものが26年目を迎えて、若干、形式化してきたかなという気がいたします。この議論は大分前からあったわけですけれども、特に今回のような場合に、もっといくつかの議論があってしかるべきだったなという気がいたします。準備をする方々をシェルパというそうですが、世界各国9つの地域及び国から出てきているシェルパの人たちがかなり事前に準備をし、時にはこういうテーマは議論しないようにしましょうというあたりまで段取りをしてしまう。実は、サミットのもう一つの読み方は、どういうテーマが議論されなかったかということでも見る視点が必要なのだという記事がある新聞に載っておりましたけれども、なかなかうがった見方であって、例えば、アメリカのバブル経済、アメリカのニューヨークの株価、アメリカの経済はバブルではないのかという議論がされなかったということは、やはり何ものかを示すのではないかなと思います。
しかし、表で議論してもらいたかったということは、実は沖縄サミットであるがゆえに北朝鮮の問題をもっと議論してもらいたかったし、例えばプーチンさんが初めて参加されて、その前に中国、平壌と寄ってきて、特に平壌では、金正日と会って、そしてミサイルについて、衛星開発について、ある種の情報を得てきたわけですから、もっと議論があってもよかったのではないかと思っています。
南北朝鮮の会談というのは、実は我々が選挙をやっているときに行われました。そして、この総選挙の中で南北朝鮮会談が何を意味するのか、我々は与野党とも大きく議論しなければならなかったと思うのですけれども、小選挙区制度の弊害でしょうか、ともすれば議論は小さな議論に陥っていったように思います。そして、あまり政策の議論はされなかったように思います。
しかし、朝鮮半島にどういった状況が起こるかというのは、実は明治維新以来、我々の先達たちの最大の関心だったと思います。苦労して新しい新生日本をつくった明治維新の指導者たちは、あの韓半島に我々に対して敵対的な政権が存在しないようにするということが、国内の経済発展よりも何よりも最大重要なテーマだったのではないでしょうか。その韓半島にある政権の背後に、仮にもし欧州列強の影響が色濃く出たとするならば、それは我々に対する脅威であると感じたリーダーたちは、そこから日清戦争に入っていき、日露戦争に入っていき、そして、太平洋戦争に発展していったわけであります。
同じような歴史を繰り返すということは賢くありません。実は、南北朝鮮が対立している間には我々には少し時間があったのだけれども、しかし、これが統一されたときの安全保障問題、日本はどういう政策をとるべきかは、今、我々政治家が最も議論しなければならなかった問題だったと思います。そして、サミットが沖縄で行われたとするならば、実は基地問題の背景には朝鮮半島における緊張状態、そこに派遣を前提とするアメリカのマリーン、海兵隊の存在であり、普天間基地の問題であり、そして移転の問題であるわけですから、ほんとうに沖縄の問題を議論するならば、沖縄でサミットを行うならば、このテポドンとノドンと、そしてナショナル・ミサイル・ディフェンス、NMD、それから地域核構想、ディフェンス構想、シアター・ミサイル・ディフェンス、TMDの議論を、もっともっとやられてしかるべきだったのではないかという気がいたします。
しかし、サミットは終わりました。我々は、サミットだけが日本の安全保障の議論を世界の人々とする場所ではありませんので、これからアジアの安全保障はどうあるべきか必死に考えていかなければならないと思っています。
さて、その意味で、私は、今度のサミットが、もう一つ議論されるべきグローバライゼーション、つまり世界経済がインターネットでどんとんつながっていくということが、果
たして世界の人々の生活にどういう影響を与えるかも議論されてしかるべきだなという視点も持たなければならなかったのではないかと思います。
アジアの金融危機というのが三、四年前にあったと思うのですが、それは、アメリカの金融技術力と情報収集力、そして、いわゆるネット技術というものが、ある意味でアジア諸国の人々が過去20年くらい一生懸命働いてきた蓄積というものを簒奪し、アメリカのウォール街に持っていき、そしてある意味では、ロシアですってしまい、ブラジルですってしまい、そしてヘッジファンドの人たちも今静かになっていったプロセスのような感じがします。そこまで見ると、ネット社会というものが持つ限界というものも、また議論していかなければならないときにきていたのではないかという気がしますし、その意味でも、討議は若干平板に終わったのではないかなという気がします。
■自民党の敗北に終わった総選挙
さて、この間選挙が我々のもとで行われました。総選挙の結果
をどう見るか。実はあの開票の夜、私もとっさに民意というものをどう読むべきか戸惑ってしまったことも事実であります。一つは、自由民主党の指導部が言っておりました、我が党単独で229というのはクリアされました。233です。それから3党で何としてでも安定過半数をとりたいというのも271で、言うなれば絶対安定過半数というのがクリアされたわけです。私は若干、自民党の最近の評価等から見て、比例区で第二位
にならなければいいなというところまで心配しておりましたが、それも6議席か7議席の差でたしか我々のほうが一位
でありました。
しかし、よく考えてみると、例えば自公保政権についての信任を問うというのであるとすれば、3党で336くらいあった議席ですから、それが271に落ちたということは、定数減を考えても50議席近い敗北であります。自民党は270ほどありましたから、これも三十数議席の後退であります。だから、私は、やはり今度の戦いは、我が党にとっては敗北の戦いであったと言わざるを得なかったのだと思います。
なぜ敗北になったか。その一つ前の総選挙は、私が幹事長で戦いました。そして、三十数議席伸ばして239になりました。そのとき私は橋本さんのもとで采配を振るいましたけれども、一番、もう胃が痛むほどの難しい判断は、消費税を3%から5%に上げなければならない流れになっていたのを、正直にそのとおり国民に言いつつ戦うか、それともその瞬間に少し選挙のためにひよってしまうかということでございました。投票の1週間くらい前まで私の心は揺れておりました。橋本総裁からは、「その点は、幹事長、あんたの判断に任す」と言われました。
そうこうしているときに東京のTBSというテレビ局の『ニュース23』というのに出ました。司会が筑紫哲也さんでありました。で、いろいろな議論をし、そしてコマーシャルに入りました。そのとき筑紫さんが言いました。「あと15秒ほどでまた番組に戻ってきます。ここにそれぞれの皆さんの前にボードがございます。そこに消費税を何%にするか、いろいろなことをおっしゃらずに、ただ数字だけ書いてください」と言いました。社民党、当時の社会党の伊藤政調会長は、いろいろ条件、こういう場合はこうのこうのということを書きながら数字を書きそうだったので、司会の筑紫哲也さんが「いろいろなことはいいですから、とにかく『3』とか『5』とか『10』と書いてください」と言いました。私は、その瞬間うーんと思って、「5」と書きました。そうしましたら、菅直人氏が「5」と応じてくれました。そして、伊藤さんも「5」と書きました。西岡新進党の書記長が「3」とか「据え置き」とかと書いたように思います。あの瞬間、実は消費税5というのが決まったように思います。そして激しい戦いでしたけれども、私たちはさっき言いましたように三十数議席、勝利を得ました。
私は、アメリカに行って時々言うんです。いかなる先進国においても大きな選挙、その国におけるメジャーな選挙、つまりアメリカだったら大統領選挙か上院議員の選挙ですし、我が国では衆議院の総選挙だと思います。そういう選挙で、メジャーな税項目、つまり所得税とか消費税というのはメジャーなものです。それについて税率のアップを明示しながら選挙で戦って勝ったのは、日本のあの選挙しかないはずですと言いました。そうしたら、反論はありませんし、うなずく人もありました。アメリカの大統領選挙の場合には、こういったときに何を言うかというと、ダーッと質問がきても、私の指先、口先を読んで判断してくださいなどと言ってごまかしてしまうというのが多いわけであります。Read
my lips、私の唇を見て判断してください。
そういう中で、日本というのは、今、ほんとうに国民の意識はかなり高度なものになって先を見て、単なるポピュリスト的な政策提言やご機嫌取りでだまされないような国民になっていると私は思っています。その意味で、自由民主党はあまり問題提起をしないで、とにかく3党で安定多数をとるという戦いをしましたけれども、そのおかげであまり厳しいことを言わなかったわけです。しかし、結果
としては三十数議席減ったというのは、私はかなり自民党政治に疲れが出てきたのではないかなということを言わざるを得ないように思います。
■利益誘導型政治はもはや限界
私は、今、国民各層の人々は、正直なことを言ってくれ、我々だってものを考えている、ほんとうに公共事業を続けて景気がよくなるんですか、ほんとうに公共事業がぼんぼん出ているんですか、ということまで考えていると思います。過去数年間、公共事業で景気対策をした、財政出動によって景気を刺激するという一つのウサギを追ったと言うけれども、ご承知のように最近、いろいろなエコノミストの人たちが、ほんとうに公共事業というのは政府が言っているほど多く実行されているのであろうかという疑念を持ち始めておられるし、それは正しい疑念だと私は思います。
我が国のGNPは520兆くらいだと思うのですが、輸出が40兆、公共事業が40兆です。ところが、この公共事業の40兆の出費というのは、国が10兆、地方が20兆、道路公団などの公社・公団というところによる公的資本形成が10兆、合計40兆であります。だから、国が少し余計増やしたとしても、地方のほうが財源がなくて、1割、2割カットしてしまいますと、公共事業は減ります。少なくとも伸びません。特に、去年1割、今年2割、各都道府県の単独事業は減らされておりますし、現実に仕事を受け取るゼネコンとか工務店の皆さんは、これが国から出ている公共事業なのか、そのお金が地方自治体から出ている公共事業なのかはわからないわけです、工事がきて仕事があるということが重要なので。その意味で、みんな、あれっと思われているのではないかと思います。
だから、私が言いたいのは、国民に率直に日本の現状を語って、そしてそれをともに心配してもらうだけの国になっているんです、国民を信頼しましょう、そして、政治を語っていきましょう、それはきっとわかってくれるに違いないというふうに我々は思うべきでないかと思います。
今度、選挙の過程で、鳩山由起夫さんが課税最低限の問題を提起されました。提起したのはよかったんですが、途中でかなり技術論になって、そして、いろいろな控除とか児童手当の増額によって差し引きプラス・マイナス・ゼロになりますよみたいな議論に追い込まれていったのは残念だったと思うのですけれども、しかし、私は、野党の党首がこの国の財源、財政のあり方について心配して、あえて泥をかぶっても発言をするということは高く評価したいと思います。そして、テレビでも評価すると申し上げました。腰折れになったのが残念でありました。
そのときに我々自由民主党側は、そこまで野党の人が言ってくれたことを真正面
から受け取って「そうですね、ともに考えていきましょう」ということを言うべきだったのではないかと思います。私は、これからの日本の政治というのは、おそらく、かなり党派を超えて、この国をどういう政策でもう一回元気にするかということを論じなければならないときにきているのではないかと思います。
我々の自由民主党の戦後の政治は、非常に特徴があったのではないかと思います。2つのことで性格づけられるのではないかと思います。1つは、外交的には、日米安保体制自由主義陣営外交、国内政策的には、対欧米キャッチアップというしっかりとした目標があったから、それに基づいて政治家は特に議論する必要なく、それに基づいて官僚がその実行計画を法案にする、それを我々国会議員が多数をもって通
すという、一言で言うと、政府側のお役所の人が法案をつくり、我々がそれを通
す、泥をかぶっても通す。それで自民党としては予算配分権限が我々にあって、そしてある意味では選挙区に予算を配ることによって、与党の強さを見せて票を集める。いわゆる利益誘導型と言われるものですが、法案を通
す、そのかわり、選挙区には予算を持っていって支持を受ける、この構図でやってきたわけですが、実は、現在我々がやっている政治は、その延長線上において最終場面
を迎えている最後の姿ではないかと思います。そこを転換しなければならないときにきているのではないかと思います。
■政権維持のための連立は国民の支持を得られない
私が自自公連立政権というのは必ずしもいい結果
を生まないと思いますということを批判的に申したことは事実でありまして、総裁選挙のときもそれを言いました。しかし、そのときに執行部からよく言われたのは、「あなたも執行部の一員だったじゃないですか。この間まで幹事長、政調会長を長くやっていたでしょう。とにかく多数を持たなければ法案を通
せませんよ。特に参議院で通せませんよ。だから、自由党と公明党も一緒に入れて連立を組むんです」ということを反論として受けたわけですけれども、果
たして、それをやり続けていいのか。その役所というものが出した法案というものが必ずしも国民にアピールしなかった場合には、国会の中で、そして、仮にそれが予算案であっても修正するという機能を持ったほうが、より政治は柔軟に進むのではないかということを言いましたけれども、なかなかその部分は私の説得力不足もあって通
じていかなかったようなところがあります。
私は、連立政権というのは、単に多数で法律を通
すというだけの任務になったら、いずれ国民からの批判を受けると思います。何をするのか、例えば、この国をどうやって改革していくのかという構造改革の道、そしてその具体案をお互いに議論して詰めて、そしてそれを実現するために政権を組みましょうというふうにすべきであって、最初にこの国を引っ張っていく理念と具体策と政策があって、そこで連立を考えていくという筋立てでないと、もう単に政権を維持するための連立というのは、国民の支持を得られないのではないかと思います。
もう一つ、連立というのは、総選挙から総選挙までの間であるべきで、まして、総選挙において選挙協力するということには無理があるのではないかと思います。私たち自社さ政権のときには、社民党にも協力してもらいました。なぜならば、自民党だけでは足りなかったからです。首班指名ができなかった。橋本総理を再び総理にすることができなかったんです。239ですから、251なかったんですから。でも、そのときには社民党には協力していただいたけれども大臣は入れませんでした。そして、次の選挙で協力するという約束もしませんでした。そういうものじゃないんだろうかなと思います。
■そごう問題は構造改革の理念を貫けるかどうかの試金石
これからの政治というのは、これから半年、1年いろいろな展開があるかと思いますけれども、一つ重要なことは、この日本をどういうふうに導いていくかというビジョン、構想、政策が先にあるべきで、そのためには、私は特に若い人たち中心に与野党の垣根を越えても政策の勉強をし、議論するということが、今一番求められていることではないかと思います。そして、その国の将来に対するビジョンをもとに、いかなる政治が行われていくべきか、これは現実の話として、いろいろ絵にかいたようにはいかないかもしれないけれども、やはり根っこのところでそういう問題意識の共有ということをしていくことが、国民の前に必要なのではないかと思っています。
さて、そういうどういった政策をやったらいいかということでありますけれども、その前に一つの具体的な例を申します。それはそごうの問題であります。大阪中心のデパートでございました。日本一のデパートでありました。その救済に国が債務を免除する、債務放棄をするということが決まりました。私たちも選挙の過程の中でしたから、正直言いまして、このそごうの問題に関心はあまり払えませんでした。選挙が6月25日に終わって、決定がされたのは6月30日だったと思います。そのとき私たちは、組閣がどう構成されていくのか、三役はどうか、そんなことに関心をとられておりまして、もちろん具体的な相談も受ける暇もありませんでした。はっと気がついてみて、あの決定でありますので、我々も一生懸命勉強しました。特に、私たち宏池会というのは、柳沢、谷垣、そして現在の久世という3人の金融再生委員長を出しており、宮沢大蔵大臣を名誉会長にいただいている集団でありますので、我々がこれをどう判断するかということは、きわめて重要なことだと思って、徹底した議論をいたしました。
しかし、どう考えても、長崎屋の場合は救済がされずに、そごうはされたということは、メーンバンクが助ける気になったかならないかという問題点でもありますけれども、そこまで国民はなかなかわからないだろうし、とてもこれは説明がつかない。そして、そごうが特殊、例外的なケースとして国による債権放棄がされるといっても、何が特殊、例外的という基準になるのか。新生銀行の抱えている債権に絡むもっと別
の業界、例えば建設業協会とかいろいろなところで同じようなことがあったら、それを断り切れるのであろうか。その判断もしてみますと、これはなかなか難しい。結局、白紙に戻してもう一回検討するしかないと思いました。その決定に再生委員長として関与したのが我が派の谷垣禎一委員長でありますし、非常に優秀な代議士で、私たちのグループの将来のホープでもあります。その決定を覆すということについては、白紙に戻すという発言をするについては、かなり我々の逡巡もございましたけれども、しかし、この段階でもう一回検討して見直したほうが日本のためにもいいし、また最終的には谷垣君を守ることになるのではないかというふうに私たちは思い、発言をし、流れを変える一つの要因に私たちの発言がなったのだと思っています。
そごう問題の根本は、一般
の私企業の活動にできるだけ政府が絡まないほうがいいという、いわゆる小さな政府論に基づく構造改革の理念をしっかり持っているか持っていないかの問題だと思います。だから、我々政治家のほうが言っていいのは、政府にあまり私企業について債権放棄してあげるとかしないとか、倒れるべきだとか倒れるべきではないとか言ってはいけませんよと、そんな決定には関与してはいけませんよということであって、我々は政府に言えるのであって、それを例えばメーンバンクの日本興業銀行に言ってもいけないし、ましてやそごう自身に電話をかけてはいかんのです。そこの一つのけじめというのはしっかり守っていないといけない。実は、私は政調会長が電話されたのは、あれっ、これはどこか違うのではないかなと思いましたけれども、よくよく我々の心の中を整理してみますと、やはりそこまで政府が関与しちゃいけない、政党が関与しちゃいけないということの理念の問題ではなかったかと思っています。
■消費を伸び悩ます2つの不安
私も「財政再建派の代議士で、あの男の言うことを聞いていくと世の中不景気になる。公共事業に対しても疑念を持っているようだし、政府がお金を使うということについてもネガティブである、否定的である。どうも景気のことを考えてないのではないか、あの男は」ということをよく言われます。しかし、私に言わせていただければ、じゃ今まで政府は景気対策のためにどこにお金を使ったんでしょう。あまり使っていないじゃないですかと。それはさっき言ったように、公共事業も世間が言っているほど、お金を使っていないのです。そんなに使っていない。
なぜ借金が増えていくかというと減税したんです。五十数兆円しか税収がないところで6兆から9兆の減税をすれば、借金がたまるというのは当たり前のことです。お金をぼんぼん使うと借金がたまります。しかし、お金を使わなくても、収入がどんどん減って前と同じような生活をしていれば借金がたまる。どちらかというと、これまでの数年間の借金のたまりは、大蔵省の主計局という予算を配るほうはかなり渋くやっているのですけど、主税局という税金を集めるほうが、政治の力に屈してかなり減税しちゃったということではないかと思います。
その減税したことによって、国民のポケットにお金が余分に入ることによって、みんなが物を買ったかということですが、私はそう買っていないと思います。国民のポケットの中にはそれなりに貯金があります。今日いらっしゃる方もみんな貯金を持っていると思います。もちろん、その貯金がものすごく大きい人もおれば、大して持っていない人もいると思うんですが、でも、その貯金をなぜ使わないか。そこが実は景気対策の一番の問題であって、昨今、サマーズと宮沢さんたちが会談しても、アメリカ側は景気対策を日本に要求したという記事がボーンと出るんですけれども、よく読んでみますと、日本は結局個人の最終消費が伸びていないね、そこを目指して構造改革の努力をしてほしいという言葉がよく出てきます。問題は、国民がなぜ物を買わないか。さっき520兆のうち公共事業は40兆、輸出が40兆と申しましたけれども、国民が物を買うという個人最終需要が300兆であります。この300兆が湿っていて火がつかなければ景気がよくなるわけがない。
なぜ物を買わないかというと、2つの不安があるからだと思います。1つの不安は、日本の経済は将来大丈夫かねと、日本の将来は大丈夫かねと、アメリカにはまた水をあけられそうだし、アジアの国々は追っかけて追い越していきそうだし、されば、日本の産業がだめになるならば、うちの夫の勤め先にも将来難しいかもしれない、されば貯金だけはしておこうという自己防衛になっていくのではないかと思います。それから、老後の不安だと思います。少子・高齢化に伴って、どうしてもと思う、そういう不安だろうと思います。ですから、私は1年半、2年前からこの不安感の状況を本気で考えないと景気というのはよくならんよと、所得減税をしてもそんなに効果
はないはずだと言い続けてまいりました。政調会長、幹事長の時代からずっと言っているので、あまり評判のよくない政治家なのですけれども、しかし、私は国民のほんとうの気持ちは、その不安の除去を考えてほしいということだと思います。
総理府の統計によりますと、今や一番貯金している世代が30代。その次が20代だそうであります。我々の30代、20代のころは、もらった給料はかなり飲んで回りました。将来、給料も上がるだろうし、日本の経済はよくなるだろうという安心感があったからです。希望があったからです。しかし、そういう若い人たちが自己防衛に走るような雰囲気にしてしまったことは、我々の責任だと思っております。政治の責任だと思っています。だから、今、我々は必死にその人たちに呼びかけなきゃならんと思います。この国の将来は何とかなるんです、ちょっと見ててくれ、必ず何とかするからということを言い続け、信じてもらえるようにしなきゃならんと思っています。
私は、国にはそれぞれリズムがあると思っています。25年前のイギリスはイギリス病と言われて、もうがけっ縁から転がり落ちるような国だと言われていたけれども、サッチャーさんが出てきて直しました。10年前のアメリカは、金融機関が次から次へと倒れ、自動車産業は日本に負け、そして惨憺たる気持ちで経済界が日々を暮らしたんですけれども、しかし、今、世界の中で一人勝ちになっています。だから、日本は今どん底なのだと思います。その日本に盛り返すだけの力があるか。問題はそこでありまして、そこをどうやって掘り起こしていくかということだと思います。
もう一回、GNPの話にいきますと、住宅産業が12兆であります。携帯電話で女子高校生たちが長く話し合っておりますけれども、四、五年前それは1兆か2兆の売り上げでしたが、今年8兆になるようです。住宅産業が12兆で、携帯電話でのお話料が8兆円の国。この8兆円の産業をつくるときに政府が少しでもお金を使いましたかと私は聞きたい。財政出動しましたかと。してないじゃないですか。そういう商売をやっていいという規制緩和をしただけでありまして、だから財政がお金を使うと、政府がお金を使うと、この国の景気がよくなるという、この固定観念を経営者の人たちが取り去ってくれたときに、私は日本の景気というのはほんとうに上向いていくのだと思っています。
■基礎研究分野では政府の役割重要
そんなに政府に力はありません。ただし、政府がやらなきゃならん問題はいくつかあります。例えば非常に採算の合わない基礎科学研究の部分は、我々がやらなきゃなりません。しかし、そのお金は公共事業に投下するものの10分の1でがーんと大きな力になります。日本国中の若手の大学院生や博士課程を終わった人たちに、日本で十分研究しなさいというためにどれだけのお金が要るかというと、1,500億か2,000億あればもうお釣りが出るくらいの金額です。一方、公共事業は40兆やっているわけです。だから、日本はそれを財政的にやれるのだと思います。それから、アメリカでは、大学と産業界がものすごく連携をとって、大学で研究したものをすぐ産業に結びつけています。それが行われた場所がシリコンバレーです。ITについてシリコンバレーです。そしてバイオについて今行われているのがボストンで、MIT、ハーバードとあの近辺のバイオ産業、製薬会社です。それはシステムを変えたり、大学の研究体制を変えたり、大学で得た基礎的な発見をどうやって特許に結びつけていくか、民間に渡していいかということであって、特に日本の場合には、そういった優秀な大学がほとんど公立の大学になっているものですから、大学が研究したものを民間に渡すと汚職になって特捜部の世界になるのですが、アメリカでは経済発展の世界につながっていく。ここをどう直すかということが実は政治がやらなきゃならない部分ではないでしょうか。我々はそういったところをいくつか手直ししていきますと、十分に発展の可能性を持った国だと思っています。
■子育て対策が少子高齢化問題解決の鍵を握る
老後の問題もそうです。65歳になったら、みんな明日から介護が必要なのでしょうか。昔は・・・・・・、昔といいましても、今からたった25年前、男は71で人生を終えました。ですから、65歳から年金を差し上げて、71ですから6年くらいの年金支給期間だったわけです。今これが77になっています。女性の場合には84かな、平均寿命になっています。ですから、そう考えると年金制度は大変だということになるのだけれども、しかし、65になってもまだ元気で働けるし、介護は必要ないんですから、その間、例えば子育てを手伝ってもらうとか、いろいろなシステムを変えていくことによって、老後の問題は解決できるのではないかと思います。
子供が少ない、生まれないと言われますけれども、原因は女性が社会ですばらしい活躍をするようになったからで、子供が生まれてしまうとそのキャリアが途絶えると思って晩婚になり、そして、結婚率が低くなる。結婚しないから子供が生まれない。一度結婚してくださると2.2人は生まれているんです。それだったならば、結婚して、そしてキャリアを維持していただきながら、なおかつ子供が生まれるためには、保育所とか時間外保育、延長保育、保育ルーム、保育ハウスという問題と同時に、実はヨーロッパなどの先進国の例を見ると、男が育児に協力するかのこの一点に絞られてしまうようであります。
私は大阪、関西の風土を知りません。しかし、例えば37くらいのかなりばりばりやっているエリート社員が、「実は部長、明日から、僕、2週間ほど休暇をいただきたい。なぜならば、妻が外資系の企業に勤めているんだけれども、ニューヨークに研修のために2週間出張に行かなければならない。この間、私が家で子供の育児をやろうと思います。2週間お休みください。休ませてください」と言ったら、その男性の出世はとまるか、とまらないか、というのをお聞きしたいと思います。私は東北の山形県出身でありますので、東北でそんなことをやったら「ありゃーちょっと変わりもんだね。奥さんもよっぽど気の強い女性じゃないの」みたいな話で、なんか話がおかしくなっていくのですが、東京でもかなり無理だと思いますよ、この話。しかし、ヨーロッパ諸国の例を見ると、結局、出生率が落ちたのが元に戻っていくのは、男が育児休暇を取ることにあえて挑戦するというところが戻っているわけです。今、世界の中である有名な方が、43歳かな、男、4人目の子供が生まれて、育児休暇を取るかどうかで悩んでおります。取り方が中途半場なのでかなり非難を受けております。イギリスのブレア首相であります。
おそらく、実は少子化の問題というのは、突き詰めていくとそこの意識変革ができるかというところにくるか、もしくは女性は全部家庭の中に戻ってくださいというしかない。その家庭に戻ってくださいということが言えるか、言っていいか。私は言って悪いと思っています。女性が社会の中で働くということは、日本人の持っている能力を最大限に伸ばす道であり、また、生き生きと働いている女性はかなり魅力的です。その意味でも、少子化の問題というのは、実は、はて男がおむつを取り替えるだけではなくて、休暇を取れるかという問題であって、でも、そういうところを変えていけば、この国の少子・高齢化の問題もある程度までというか、かなりの程度まで解決できる。単に児童手当を差し上げたら子供が生まれてくるだろうと思うのは、あまりにも楽天的なのではないかと思っています。
いろいろ申し上げましたけれども、私はこの国に未来はしっかりあるし、夢はしっかりあると思っています。しかし、その夢を政治が与えないで、そして、公的年金といって国民年金の掛け金を一生懸命集めているけれども、しかし、結局その金も親父たちが景気対策に使った借金の穴埋めに流用されてしまうのではないかと若い世代が思っていたとするならば、私は不幸なことだと思います。いろいろなところで私は年金の演説をしておりますけれども、どうも公的年金に対する不信感があるのは、突き詰めていくと若い世代に今言った不審の念があるということが最近やっとわかりまして、そこまで信じられていないのかなと思いました。私たちは、この国の将来をしっかりとしたものにして、高齢化、少子化も、そして新しい産業をつくるのも、簡単な話ではないのだけれどやれるのだと、そしてもうこれに我々は真正面
に取り組み始めたということを示すことが、私は政治に対する信頼感を取り戻すことだと思うし、我々自由民主党に対する評価を再び戻すことになるのではないかと思っています。
■若い世代に日本のビジョンと夢を示そう
私は、21世紀が近々くるわけですけれども、そのときには、しっかりした構造改革の旗を立て、そしてその政策の内容を固め、そして若い世代に夢を与えられるような新しい政治を我が自由民主党はやっていかなければいけないのではないかと思っています。
昔、若い世代は反自民でした。イデオロギー的に反自民でした。感覚的に反自民でした。しかし、今、若い世代の人たちは、反自民でもなければ、反共産党でも、反民主党でもない。いい政策を言い、いいメッセージを出してくれるならば、どの党でもいいと思っていてくれる、そういう柔軟性がある世代ではないかと思っています。その世代に対して、都市で票がとれないから、若い人たちに受けないからといって、都市の公共事業を増やすことによって票を獲得しようと思ったならば、それは感性のずれではないかと思います。都市の住民の方々には、生活を論ずること、それは医療であり、年金であり、教育を論ずることが、一番の重要なことだと思います。若い世代には、日本のビジョンと夢を論ずること、それが一番の若い世代に対するメッセージであるべきだと思っています。
ともすれば、従来パターンの中央官庁がつくった政策を自民党が多数を持って責任を持って押し通
し、原案どおり通すことが政治だと思った時代は、そろそろ終わらなければなりません。その押し通
す過程の中で受ける非難や泥を消すために、公共事業を利益誘導の形で選挙区に運んでいくことによって票を集めていくという政治ももう限界にきたなと思っています。その認識を我が党でどこまで持ち得るか、そして持ち得なければ私たちの自民党は、20世紀の終焉とともにその任務を終える政党になるでしょう。しかし、しっかりとした認識を持ち得るならば、新しい世紀に向けて国民とともに、この国の将来を再び築き上げていける政党になるだろうと思っています。残された時間は我々にそう多くはありません。それは自民党にとっても多くはないし、また日本国にとっても多くはない。しかし、そこに気づいてやっていけば、かなりの技術開発力とこれだけの知性のある国で、これだけの実績と資本蓄積をやり遂げた国が、再び世界の中で存在感を増す国になることは間違いありません。
そういった大きな目標のためには、単に一党で議論するだけではなく、広く与野党をまたいでの若い世代の議論や、我々の議論が今求められているのではないか。そんな使命感を持ちながら、これから一生懸命この国の行くべき道を模索していきたいと思っています。大人が夢を持たないときに、その背中を見て歩んでくる子供たちが夢を持つわけがありません。大人の中で一番夢を持たなければならないのが政治家であり政党であるなということを、もう一回我々は自分たちに言い聞かせながら活動してまいりたいと思います。
ご参考になれば、またご叱正をいただければ幸いに存じます。
どうもありがとうございました。(拍手)
【司会】 どうもありがとうございました。衆議院議員加藤紘一さんでした。ありがとうございました。
── 了 ──
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