|
加藤紘一。メディアの人間たちは、加藤を「ポスト森」の本命だと捉えている。だが、自民党内、そして官僚たちの間には、意外に反加藤の声が強い。
理由の一つは、加藤が右翼のタカ派ではなくリベラル派の主柱的存在であることだが、それ以上に加藤が政策通
であることが、とくに官僚たちに敬遠されている。
これまでの首相は何も知らない人々だったが、加藤は何事にも精通
し、他者にはない理念まで持ち、やりにくいというのである。理屈にもならない理屈だが、メディアのなかにも、もっともらしい口調でこんなことを言う人間が少なからずいる。こういう声を聞くと、加藤を励ましたくなる。(田原総一朗)
■
亀井静香との“政策論争”
【田原】 まずは森政権は何点くらいでしようか。
【加藤】 合格点が60点だとすると、70から75点くらいですかね。やはり突然の就任でしたから、当初、肩にカが入り過ぎていて、調子が出なかった。「神の国」や「寝ていてほしい」発言は、準備不足から起こったことだと思いますよ。
いまでも総理という立場ながら、地元の方と連夜、会食したりして、幹事長の延長の感覚なので、みんな少し戸惑っています。しかしだんだん総理としての行動、発言になってくると思いますよ。
【田原】 加藤さんは、森さんとは古くからの知り合いで、仲がいいですよね。森さんの魅力と欠点は何ですか。
【加藤】 魅力は人に任せるところでしょう。彼と一緒に仕事をしていると、全部任せてくれる。いまの亀井政調会長がいい例ですが、伸び伸びと思ったことができる。逆に欠点は、肝心要のとき発言を控えすぎる。最高責任者たる総理や幹事長は、決断を求められることが多いんですが、そういうときにかぎって慎重になる。
【田原】 指示をしないんですか。
【加藤】 はい。やはり総理の最大の職務は、難しい問題に対して、できるかぎり敏速に決断を下すこと。それが国民、そして日本という国家を左右する。森さんにはもう少し、決断を求められるポジションにあるという気構えを持ってほしいです。そうすると自分の言葉が出てくる。常に考えていると、自らの言葉がほとばしるほどに、出てくると思いますよ。
【田原】 ところで、亀井さんは加藤さんを目の敵にしていますね。一方で加藤さんも、亀井さんと考えが違うと言う。何がどう違って対立しているんですか。
【加藤】 決して対立しているわけではないし、私は亀井さんを凄い実行力を持った方だと思っています(笑)。ただ私とは日本社会、日本経済に対する認識が根本的に違う。亀井さんの最大の問題は、日本社会が大きな政府に頼る過度の依存症候群に陥っていると認識していないことです。だからさまざまな財政出動発言をする。過去一年間の発言はすべてそうです。しかし政府にその能力が失われつつあることは、ほとんどの国民がわかっている。今度の補正予算でも、世論調査で「必要ない」が6割、「必要」は2割です。国民は政府の限界を本気で心配しているんです。
【田原】 つまり、国民はわかっているのに、亀井さんはわかってないと。
【加藤】 そうです。亀井さんの行動を譬えて言うならば、初老に入った父親が、サラリーマンになりたての息子に、「自動車を買ってやろう」などと、世話を焼くのに似ていますね。対して、「親父、大丈夫か。もうカネがないだろ。自分のことは自分でやるから、借金は残さないでくれよ。後が大変だからさ」というのが国民の感覚ですよ。亀井さんの場合は、やんわりと息子から拒否されるバツの悪さみたいなものを感じないみたいですがね。(笑)
【田原】 亀井さんは、他の先進諸国に比べると、日本は社会資本整備が遅れていると言いますね。飛行場や開かずの踏切など問題が多く、後の世代のためにもいまこそ充実させるべきだと言う。それを加藤さんは批判するわけですね。
【加藤】 いや、必要な公共投資はやるべきだと私は思っていますよ。東アジアでのハブ空港を目指すためにも、空港整備に投資するのは非常に重要でしょう。しかし、「すべてに」といった時代は終わり、重点投資の時代がきたと思うんです。
亀井さんもそういう文脈でおっしゃっていると思います。だから、亀井さんの公共事業全体の見直しをやろうということに対しては、私は評価した発言をしている。ただ、亀井さんの耳には届いていないようですが。
【田原】 聞こえていないようですね。
【加藤】 たまに評価しても聞こえない。これは政治家の癖ですね。しょうがない。だから本来、言葉を返してはいけないんですが、最近私は、あえて党内の人にでも言葉を返しているんです。特に亀井さんにはね。
【田原】 亀井さんは、それが気に入らないんだ。
【加藤】 いいところはしっかりと認めてるんですがね。たとえば、そごうの負債処理問題でも、敏速に対応した亀井さんの実行力を高く評価していますよ。ただ、直接そごうに電話をかけてはいけません。一企業が倒産するか否かの瀬戸際に、その企業はどうすべきだといった発言は、控えるべきでしょう。「お宅がつぶれていただかないと」とはね・・・。亀井さんは、政府の限界についての基本哲学が少し欠けているから、ああいう対応になる。
【田原】 ポスト森で、加藤さんと亀井さんが組んだら、理論と実行力が合わさって、相当面
白い政権ができると思うんですが、なんで喧嘩ばかりしてるんですか。
【加藤】 私は喧嘩をしているとは思っていませんよ(笑)。政策論争のつもりです。ただ僕も少し反省しているんですが、譬えとして亀井さんをつい使ってしまう。「ヒトのクローンはやっちゃいけません。技術的には亀井静香さんを百人、今日にでも作れる。しかしそれをやっちゃいけませんね」とね。半分冗談、半分真面
目な演説だけれど、亀井さんはちょっと怒っていたらしい。例として、会場の人に説明するには、いちばんわかりやすかったんですけれどね。(笑)
■ 景気浮揚とIT
【田原】 ところで、加藤さんはいま日本の景気は何合目まできたと思いますか。
【加藤】 四合目か五合目ぐらいでしょう。
【田原】 それでも、やはり補正予算十兆円は行うべきではない。
【加藤】 はい。いまもっとも必要なのは、企業や国民に、政府に対する過剰な期待を捨ててもらうこと。それがこの不景気のいちばんの根本治療です。それぞれの企業が努力しないで、政府が何か手を打てば在庫が一掃できるといったことはありえません。
【田原】 日本人が持っている「お上頼み」を徹底的になくすんですね。
【加藤】 そうです。まず政治家が、「僕らは一所懸命やりますから、期待してください」などとは言わないことです。政府が行うのは、民間企業ではできない部分だけに限るべきです。
【田原】 具体的には、どこに限定するんですか。
【加藤】 たとえば、アメリカのようにIT(情報技術)産業とバイオテクノロジーのきわめて基礎的な部分は、政府が大学などに投資して研究させる。そこで生まれた技術が民間に手渡され、大きく発展してIT「革命」につながっていく。同様に民間企業と大学の研究機関が研究成果
や資本の交換ができるようにする。
また国際金融も政府が支援し、もっと日本が自己主張しやすい環境をつくる必要がある。しかし、どのような製品やサービスを作るかについては民間企業にがんばってもらう。
【田原】 どうも、まだ政府の介在やら規制が多いんですね。では、まず行うとしたら、具体的に何ですか。
【加藤】 いま必要なのは、IT革命に対応すること。より具体的に言うなら、NTT法(日本電信電話株式会社等に関する法律)の改正です。
【田原】 改正してどうするんですか。
【加藤】 昨年の改正で、NTT東日本、NTT西日本などいくつかに分かれましたが、それぞれまだ業務分野が限定されている。それをさらに自由にする。たとえばNTT東日本も、事によったら携帯電話の世界、モバイルの分野に参入しても構わない。NTTが約75%を持っている
NTTドコモ株を50%以下にして、コントロールを緩やかにさせる。極端に言えば、NTT東日本とドコモが競争関係に立つぐらいまでに、より自由な競争を促進させるべきだと思うんです。
【田原】 ITに携わっているほとんどの人たちが、「NTTが壁になってる」と言いますね。加藤さんもそう思うんですね。
【加藤】 はい。ITは自由競争のなかから新しい技術、市場が生まれてきましたからね。
最近、競争のなかから伸びてきたいい例を聞きましたよ。いわゆるメンテナンスやエンジニアリングを業務としているNTT-MEという会社があるんです。この会社は旧来の電話機修理などに携わっていた中高年齢の方々を中心に、約1万8000人の従業員がいる。このNTT-MEの収益がいいんです。従業員一万人以上の会社規模でみると世界で一番高齢の会社なんですが、必死になって時代に対応しようと、いま全員が最先端のパソコンの補修、指導の資格を得るように努力し、変わったらしいんです。
やはり、土壇場になって競争すると、日本社会はかなりの能力を出すことができるといういい例でしょう。
【田原】 その競争を阻んでいるひとつがNTT法なんですね。
【加藤】 そうです。総選挙のときに、森さんはどなたかのアドバイスを受けて、主張なさっていた。私も翌日には大賛成と言ったんですがね。ぜひ実行していただきたいですね。
■
日本の新しい外交基軸とは
【田原】 いままで日本は、「戦略なき国家」と言われてました。要するに、事実上アメリカに従属してやってきた。しかし冷戦が終結し、日本も独立国として、自立した戦略を持つべきだといった議論が盛んになってきました。
【加藤】 しっかりと考えなければならないときがきたと思います。まず日本外交の基軸をどこに置くかを考えるべきです。
【田原】 そこなんです。どこに置くんですか。
【加藤】 これからの国際社会の大きな基軸は米中関係です。これをふまえると、やはり私はアジアだと思います。
【田原】 それはどういう意味ですか。
【加藤】 少し別
の角度から説明しましょう。なぜアメリカが今後も日米安保条約を維持するのか。その理由は二つあると思うんです。ひとつは日本がアジアのなかで非常に大きな影響力を持っている、もうひとつは中国と対話ができる。一方でアメリカの対中国観は、2、3年ごとに大きく右に、そして左に、強硬から柔軟に揺れ動く。この変化は国際政治全体を不安定にさせることにつながります。そこに日本が必要とされると思うんです。つまり、日本がアメリカと中国の間で、しっかりとバランスのとれた仲介者になる必要があるんです。
【田原】 あまりアジアと関係ないじゃないですか。
【加藤】 いやここが重要なんです。回りくどいようですが、日本がその役を担うには、アジアのなかでしっかりとしたリーダーシップをとれる国、信頼されて影響力を持ち得る国になっている必要がある。だからこそ、アジアとの関係をしっかりとしたものにする必要があるんです。
【田原】 では、日本はどのようにすれば、アジアとしっかりとした関係を築けると思いますか。
【加藤】 やはり、まずは経済協力関係からでしょう。過去3、4年のアジア経済危機のなかで、日本の9兆円におよぶ資金援助は、アジアにおける日本の影響力を格段にアップさせたと思いますよ。
【田原】 経済援助だけでできるんですか。僕は、アジアにとって日本はなくてはならない国だけれども、日本がアジアのなかで影響力を持つためには、たんに経済援助だけでなく、やはり何か他に必要だと思うんですが。
【加藤】 もちろんです。非常に緩やかな形で金融協力機構をつくることが重要でしょう。たしかに榊原(英資)さんがアジア版IMF構想を出したときには、アメリカに反対されましたが、アメリカも理解しはじめ、一歩一歩進んでいますよ。同時にアジア諸国も、日本にもっとイニシアチブをとってほしいと思っていますし。
【田原】 それは本当ですか。
【加藤】 ええ。なのに日本がその気にならない。
【田原】 なぜですか。
【加藤】 関与しないことに慣れてしまったことと、問題意識の稀薄さでしょう。要はイニシアチブを執るのが怖いんですよ。
【田原】 歴史的な問題が引っかかって、アジアに関与することをタブー視しているんでしょうか。
【加藤】 それは違うでしょう。アメリカに対して、あえて主張する強さが、まだ持てないんです。
【田原】 アメリカが怖いわけだ。
【加藤】 そうです。私は、もう少し日本は国際的にカを持ってもいいと思っています。米中の仲介者という意味でも。これは大きな課題ですね。われわれが、いかに国際平和に積極的に関与できるかということでもありますからね。
■
対中戦略はあったのか
【田原】 少し話を戻しますが、米中の仲介者として日本の位
置づけは、米中に対して等距離なのですか、それとも日米関係あっての中国なんですか。
【加藤】 もちろん価値によって距離感は違います。たとえば民主主義、安全保障という意味では、日米間の距離は近い。一方で、地理、歴史、文化そして伝統的には日中間のほうが近い。しかしアジアにおけるプレイヤーとして、アジアにおける存在として考えるならば、日米中が同じ重さを持っていると認識すべきです。
【田原】 しかし日中関係にはさまざまな懸案が横たわっていますよね。たとえばよく言われるのは、中国に対するODA。戦略もなしに三兆円も援助していると批判されますが。
【加藤】 そうでしょうか。対中円借款は、大平首相のときに非常に大きな戦略を立て、それに基づいて、スタートしたものだと思いますよ。
【田原】 どういう戦略があったのですか。
【加藤】 二つあったと思うんです。ひとつは、第二次大戦であれだけ領土を蹂躙しながら、対中賠償をしていない。これが背景にあった。もうひとつは、20年前の中国はいま以上に強く社会主義を前面
に出していました。それを日本が経済協力することによって、より市場経済を重視する、そして国際社会および日本と、共同歩調をとれる国になってほしいと、こういう戦略があったんです。
【田原】 市場経済を認める経済形態に変わってほしいという戦略があったんですか。
【加藤】 あったんです。明確に意識して行われたと思います。総理大臣も外務大臣も、当時はっきりと意義付けを国会などで話していましたよ。その結果
かどうかわかりませんが、中国は改革開放政策を進め、その後「社会主義市場経済」という言葉を使うようになりましたね。
【田原】 「ある意味では傲慢な意見かもしれませんが、いま大平さんの戦略が実りつつあると言ってもいいわけですね。
【加藤】 「実りつつある」と言ったら、中国に失礼になりますが、少なくとも我々の願望にはあり、結果
的に近づきつつあるんですね。
【田原】 日本は決して戦略のない国ではなくて、戦略はあったんですね。
【加藤】 ありましたよ。ただ、政治家が説明する言葉を持たなかったり、強い口調で言わない。これは日本の政治家の性癖だと思いますがね。
【田原】 強い口調で言うと、マスメディアに批判される。だから大平さんも、「戦略があるぞ」なんて言わなくて、「日中間というのは楽しい話し合いでしたよ」としか言わなかったんでしょうね。
【加藤】 まあ、内政干渉になりかねませんから、発言すべきではないですね。
■ アイデンティティ模索の必要性
【田原】 では、アメリカに対して日本は戦略はあったんでしょうか。
【加藤】 吉田(茂)さん以降、あったと思いますよ。
【田原】 アメリカの言うことを聞くという戦略ですよね。
【加藤】 そうも言うかもしれませんが(笑)、もっとしっかり言うと、防衛面
で巨大な敵に対してはアメリカの力を借りる、同時に日本は国際交渉に武力を使わない。その戦略のもとに、防衛費を抑制した軽武装経済重視主義が採れた。これは大きな戦略だったと思います。戦略の欠如は、この15年間ですね。
【田原】 80年代半ば以降、日米の経済摩擦が非常に激しくなる。さらには冷戦が終結する。日本も対米戦略を変える必要があったのに、そのままだったという意味ですね。
【加藤】 その通
りです。これは私自身にも、過去15年間、特に最近の6、7年は、自民党の政策決定の中核にいた者として、十分にできなかった責任がある。ただこの15年間は、対米戦略以前に日本の体力をどう回復するかだったと思うんです。
【田原】 どういう意味ですか。
【加藤】 簡明に言えば、15年前の段階から、新しい道、つまりこの国をセミ社会主義国家から自由主義の伸び伸びとした国に転換させる必要があったんです。
【田原】 単純に言えば、小さな政府で、自己責任を持てと、先ほども言っていましたね。これはよく聞かれる話でもある。
【加藤】 そうなんです。問題は先進諸国のほとんどが小さな政府を追求している。しかし、その追随では、日本独特の味が出てこないということです。グローバライゼーションを進め、世界のなかで競争力を持つために、IT化を進行させますが、他方でIT化はそれぞれの国の個性を消してしまう。だからこそ、われわれは日本の個性とはどういったものであるのか、日本人のアイデンティティを突き詰める作業も行う必要があるんです。
本来なら、欧米へのキャッチアップを完了し、冷戦構造が崩れはじめた15年前から、日本の価値を見出す作業に着手する必要があったんですが、バブル景気に浮かれ5、6年、その後政治改革論議で五、六年空費してしまった。
【田原】 政治改革論議は空費でしたか。
【加藤】 空費でした。政治改革を行うと、いい政治家、いい政策、そしていいアイデンティティが出るというのは幻想でしたね。ですから、その分ここ1、2年、ものすごい大きな流れは、日本人による日本探し、自分探しだと思います。かつて、冷戦構造の崩壊とともに「普通
の国」というスローガンも出てきましたが、よく考えると、「普通の国」とは個性のない国です。一国平和主義の克服という点では、意味があったのかもしれませんが、ごく当たり前で、他国と横並びでは、日本独自のパワーは発揮できないでしょう。
【田原】 小沢一郎さんへの批判ですね。
【加藤】 そうです。「日本はここがいいんだ」と言うとき、「われわれは、世界の国と同じだもん」と言ったら、ちょっと論理矛盾ですからね。(笑)
■
外国人地方参政権問題
【田原】 少し内政をうかがいましょう。いま外国人に地方自治体への参政権を与えるかが問題になっています。野党はほとんど賛成なのに対して、自民党は割れている。そのなかで加藤さんは反対ですね。
【加藤】 はい。非常に論理的に考えれば、在日永住者の人たちには、できるだけ国籍を取っていただくのが筋だと思います。諸外国を見ても、外国人に参政権を与えている国はあまりない。EU諸国がかなり行っていますが、これは、EU全体が国境というハードルをさらに低くするために行っているんです。
【田原】 EUは、あくまでEU諸国内部での選挙権ですね。日本人がEUで長期にわたって住んでいても、選挙権がもらえるわけではありませんし。
【加藤】 ただ、在日永住権の場合には、理屈ではすまない感情問題などがある。われわれの政策グル-プでも討論していますが、私個人としては1951年のサンフランシスコ講和条約発効以前まで日本国籍で、その後韓国籍になり日本に永住している人。年齢的に言えば50歳以上の方々をどうするかが最後に残る論点だと思います。
【田原】 野中(広務)さんの考え方に近いんですね。
【加藤】 近いですが、「強制連行された方」というような、過去の経緯を考慮して参政権を与えると思います。
【田原】 そういう言葉を使ってはいけないと。
【加藤】 そうです。
■ 「ビッグシスター」が活路を拓く
【田原】 一方で17歳の少年たちによる殺人事件が頻発し、彼らの心の荒廃を指摘する声が大きくなり、教育改革の必要性が叫ばれています。こうした問題についてはどのように思われますか。
【加藤】 解決手段のひとつとして、コミュニティ、地域といったものを、再構築する。いま十七歳の殺人事件が起こると、「両親はどうした。教師はどうしてた」と批判が飛び交います。私もそう思うところがあります。しかしだからといって一昔前の親たちが、自らの教育に自信があったとは思えません。
いまの両親たちより、年齢的にはもっと幼い親たちの周りには、ロうるさい嫁姑や叔父さんたちがいて、時たま回ってきては甥や姪たちを叱る。あるいは小さなコミュニティのなかにも、口やかましいおじいさんやおばあさんが必ずいて、みんなで教育していたと思うんです。
核家族の共働きである若い両親たちだけでは、忙しく疲れ切っていて、なかなか教育できないのは当然でしょう。
【田原】 しかし少子高齢化が急激に進み、ますます若い両親への期待が高まっています。2005年になると日本の人口が減るとの推算も出ています。これにはどのように対処すべきだと思いますか。
【加藤】 すでに女性の社会進出は止められないし、彼女たちのほうが成績がいいという現実もある。彼女たちのエネルギーが、現在、社会に活力を生み出しているとさえ言えると思います。そうなると現実的な施策は、ドイツ、スウェーデンのように、男性が積極的に育児休暇を取れるようにすることでしょう。
外資系の企業で働いている優秀な女性が、子どもを産んでなおかつニューヨーク本社で2週間の研修と言ったときに、男が2週間の育児休暇を取るといった社会にしないと、子どもは増えないと思いますよ。
【田原】 現実的にはいま、託児所が少なすぎる。この託児所の費用は、国が持つべきか個人が持つべきか、どちらですか。
【加藤】 バウチャー制度を導入しないと成り立たなくなりますね。いまの老人の介護保険も、一種のバウチャー制で、身体的状況などに応じて、クラス分けし支給している。同様に、状況に応じて保育利用券を与えて、託児所でも時間外保育でもゼロ歳児保育でも、それぞれが利用できるようなシステムをつくるべきでしょう。
【田原】 それは、国なり自治体が、いくらか負担をする。あるいは援助をするという意味ですね。
【加藤】 いま、国と自治体で合計1兆5千億円ぐらいかけていますが、それを有効活用するのがひとつ。これは、利用権利をもらったら、両親が自分で選択をする。そのうえで、民営の保育施設ができるようにする。
もうひとつは、実は女性で50歳から72、3歳、男性で60歳から70歳ぐらいまでのエネルギーが、ものすごく余っているんです。その方々に、半分ボランティア、半分年金に上乗せする形で協力していただく。
【田原】 いくらぐらいですか。
【加藤】 月に5万から10万円ぐらいで、子育てに参加してもらう。
【田原】 舅、姑の役割ですね。
【加藤】 そうですね。とくに女性の場合、子育ての経験がある方が多いですから、その方々の協力は有効だと思います。姑さんの「社会化」とも言えるもので、私は仮に「ビッグシスター制度」と呼んで、4、5年近く考えているんです。少子高齢化に対しては、意識改革をし男性も育児休暇を取れるようにする。それからビッグシスター制度のようなものをうまくつくる。いずれにせよ、仲間の若手議員に頼んで、いま一所懸命研究してもらっています。いずれ、ビッグシスター制度は強く打ち出したいと思ってますよ。
■ 防衛政策と同等の国際金融政策
【田原】 しかし、日本はいつになったらアメリカから独り立ちできるんですかね。
【加藤】 戦後日本は、やはりアメリカがあって何とかやってこられたんですよ。
振り返ってみてください。80年代半ばから90年代初頭まで、日本経済、そして円は一番強かった。しかし円は基軸通
貨にならないどころか、主要通貨としてのポジションも非常に低かった。かといって地位
の向上を望んだわけではない。なによりもアメリカに気兼ねしたんです。同時にあったのは、そんなこと、あり得ないという気持ちでした。
去年、アジアのある国の首脳と話したとき、「日本がわが国の学生に奨学金を与えて東京に勉強にこいと言ったとき、なぜドル換算で寄越すんですか。日本円で金額をお決めになればいいじゃないですか。わからない国ですね」と言われました(笑)。付け加えて「もうちょっと自信を持ってやってください」と。
【田原】 日本の政治家は、官僚も含めて、アメリカなしでは自信がないんですかね。
【加藤】 それは政治家が、経済とくに国際金融を二次的な仕事としか思ってこなかったからです。その領域では日本は80年後半一番だったんですがね。しかし政治家は、ペッグ制やら、毎日0.15円動くような話に血道を上げて議論しているのは、小物だという意識があったんです。
【田原】 政治家は国際金融などに関心を示す必要はないと。
【加藤】 持たないのが大物の政治家だと思っていますね。ところが、マレーシアなどは違います。マハティールをはじめ実力のある政治家たちが、自らやっている。
【田原】 ついには固定相場制にしてしまいましたしね。
【加藤】 ええ。彼らにとって国際金融や通
貨に対する政策は、核政策や防衛政策と同じぐらい、命を賭けたものです。かくいう私も、過去15年、そういう勉強をしたかというと、なかなかしてませんので、評論家風にしか言えませんが、ここ3、4年、本当に国際通
貨の問題は命を賭けて考えなければならない。毎年数兆円、国民一人当たり2〜3万円の働きがどこかへ消えているような気さえしますからね。
【田原】 国際金融に対する政治家の関心が、薄すぎますよね。
【加藤】 ええ。20年ぐらい前に牛尾朗さんが私に、「加藤さん、あなたもそろそろ国際通
貨の勉強をはじめたら」と言いましてね。たしかにそうだなと思いつつも、「何を言うんだろう、この人は」と思って、ひとつの建前としか聞かなかったんです。そのことをいま猛烈に反省しています。
【田原】 日本の中核にいる政治家たちは、わかっていますか。
【加藤】 まだ、本気の人は少ないでしょうね。まだまだこの過去10年を「マネー敗戦」だったと認めている人は少ないかもしれません。これは不安ですね。
── 了 ──
|